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野放しの欲望的自我 近代人の教化に失敗した宗教

2016年7月8日付 中外日報(社説)

米国大統領選挙で共和党候補指名が確実になったトランプ氏の支持者は、主として中下層白人市民だといわれている。同氏の主張の是非はともあれ、そこからは現代アメリカの一断面が浮かび上がってくる。少数の富豪が金融操作で巨富を得、中下層白人市民は移民に職を奪われ、アメリカは中国、ドイツ、日本の市場となり、イスラムの一部の敵意にさらされていると彼らの多くが感じていることだ。アメリカは貧しく弱い国になってしまった、とトランプ氏は叫ぶのである。

戦後、交戦国中でただ一つ本国が安泰であった戦勝国アメリカは超大国となって優位を獲得したが、ソ連との核兵器開発競争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イラク・アフガン戦争で体力を消耗し、今では世界中に基地を展開して既存の秩序を維持することにやや消極的になった。

近世に商業の興隆と近代的技術の開発で強力となった西欧列強は、植民地獲得競争から帝国主義的戦争に突入した。領土拡張競争には日独が加わって第2次世界大戦が起こり、旧宗主国が弱体化した結果、植民地が独立して強国の支配から脱却していった。かつて列強の勢力下にあった中国の自己主張もこの文脈上にある。

中東に関しては、特に第1次世界大戦後、実質上の英仏支配下に入った事情がある。さらに英仏がイスラエル建国を支持して紛争は激化した。アメリカのイラク派兵はシーア派、スンニ派、クルド人の対立抗争の激化を招いた。欧米を脅かすアラブの過激派やIS(「イスラム国」)の暴力的な建国願望も大きく見れば、欧米支配脱却を求める趨勢上にある。

翻って考えると、近代の宗教・道徳は、東でも西でも強国の勢力拡大を支え、近代化が招く危機を防止する上ではほとんど全く無力だった。近代とは、「個」の尊厳と権利に目覚めながら、結局は富と支配を求めるに至った自我の文明ではないか。各人が合理的に利益を追求すれば国富につながると説いて欲望的自我を野放しにした近代は、未曾有の文明と繁栄をもたらしたが、他方では富と権力の極端な偏在、人類的危機をもたらしかねない紛争と自然破壊を現実のものとしてしまった。

宗教は近代人の教化に失敗したと言ってもよい。宗教はもともと、深みを見失って自我の文明となった近代に対してこそ告知されなければならない真実を保有しているのだが、伝統を守ることに熱心で近代化を怠り、現代人の関心を引かなくなっている、と言わざるを得ない。