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広島市大研が事典出版 平和研究の指針に

2016年6月22日付 中外日報(社説)

「平和とは何でしょうか。平和を創造するには、どんな手だてがあるでしょうか。人間の安全を保障する政策は、いかにあるべきでしょうか」。平和研究の道を率先して開かねばとの使命感から広島市立大広島平和研究所が出版したのが『平和と安全保障を考える事典』であると、同研究所の吉川元所長は「まえがき」に記す。A5判、700ページの大冊だ。

平和の大切さは誰もが知っているが、第2次世界大戦が終わってからも、地球上で戦火のやむことはなかった。戦争といえば国と国の争いであったものが、内戦や民族紛争に形を変えた。東西冷戦終了後は、その傾向が深まっている。難民総数は6千万人を超えた。

その一方で、平和を希求し、実現を目指す研究は、学問としての体系化が進んでいない。研究を実現させるには、学際的なアプローチが必要だ。そのための手掛かりとなる資料を一冊の事典にまとめて、平和都市の広島から発信しようではないかという声が、広島市立大平和研究所の内部から起こった。それがこの事典編集のきっかけだ。

編集作業は2013(平成25)年から始まった。研究所スタッフを中心に50人近い編集委員が結集、広島・長崎の被爆、軍備と核兵器、国際政治と安全保障、原子力問題、環境と開発など10項目、約1300件について227人の専門家に執筆を求めた。外国人の学者も協力した。

内容に応じて1件の記述は500~1500字とした。意見の分かれる問題は、両論併記を心掛けた。特色の一つは仏教、キリスト教、イスラームなど主要宗教の平和思想を紹介したこと。釈尊の時代から「イスラム国」が出現する現代まで、2500年の動きを収録した。

広島の学界からの平和問題への発信としては1952(昭和27)年10月の日本学術会議総会が想起される。当時の学界には「原子力の平和利用」を積極的に推進しようとの機運が高まっていた。それに待ったをかけたのが、当時の広島大理論物理学研究所長の三村剛昂教授だった。

三村氏は自らの被爆体験を語った後、原子力の「平和利用」と核兵器の開発は表裏一体であると説き、慎重さを求めた。その発言が学術会議を動かし、「公開・自主・民主」の「原子力研究三原則」が確立された。

広島市大の平和研は98(平成10)年設立の“若い研究所”である。被爆70年記念事業として出版された『事典』が広く活用されることを期待したい。