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遺伝子検査が生命保険に いのちは“情報”なのか

2016年5月11日付 中外日報(社説)

大手生保の明治安田生命保険が遺伝子検査を保険サービスに活用する検討を始めた。遺伝情報の分析により、特定の病気がある程度予測できることから、保険加入者に適切な健康指導を行い、病気にかかるリスクを減らすことなどを目指す。発症リスクが低くなれば保険料も安くできるし、加入者が健康になれば保険金の支払いも減る。保険会社の皮算用もそこにあるようだ。そのためには遺伝子分野の専門家も必要だし、また遺伝情報を解析するベンチャー企業との提携も視野に置いている。

一方、その思惑とは逆に、健康な人が保険に加入せず、リスクのある人ばかり加入するならば、生命保険の仕組み自体が成立できなくなってしまう恐れもある。生命保険とは、将来の病気リスクが未知数だから加入するものであり、そのシステムもまた加入者全員で支えるものだからだ。

倫理面での問題も見過ごせない。我が国ではまだ米国のような遺伝情報差別禁止に関する法律が制定されておらず、多くの懸念が指摘される。遺伝子というのは当の本人も知らない究極の個人情報であり、そのプライバシー保護の問題はもとより、遺伝子による保険加入の拒否などの差別が起こりかねない。

ただし、遺伝子解析といっても決して完璧なものではない。病気の遺伝的な要因も複数あり、また生活習慣による環境要因も複雑に絡んで発症する。この点で慎重に判断していく必要がある。2013年にアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝子検査で乳がんになるリスクが高確率であるという結果を受け、予防的乳腺除去手術を受けて話題になった。しかし、この発症リスク診断の信頼性や、まだ健康な乳房まで切除するのはどうなのかという疑問も残った。

そもそも、遺伝子はいのちの設計図であり、各人のいのちに組み込まれたものである。それはいずれも生命発生以来、悠久の時の流れを経ている。これを遺伝“情報”として言いきってしまうところに、いのちへの畏敬の念がどこまで込められているだろうか。遺伝情報を保険サービスに活用すると言ったとき、いのちを情報として扱うこと自体への違和感が拭えない。

遺伝子にはいのちの神秘が宿る。それは神仏の思いが込められたものとして、最大限尊重されるべきものである。生命保険の在り方もまた、ビジネスの経済合理性の枠組みだけではなく、加入者の生命と健康を保障する“たすけ合いのシステム”としての本来の在り方を追求していくべきである。