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匿名卵子で体外受精 宗教者は先回りして議論を

2015年8月21日付 中外日報(社説)

早期閉経のため妊娠できない女性とその夫に対し、匿名の第三者から卵子を無償で譲り受け、この卵子と提供を受ける夫婦の夫の精子による体外受精を実施したと、卵子提供を仲介するNPO法人が発表した。現在は受精卵を凍結保存しており、受精後半年をめどに子宮に移すという。

卵子提供や代理出産が遺伝上の親と生みの親とを分離させることは、人間生命自体に人為的操作を加えることにもなる。第三者を介した生殖補助医療は、夫婦の在り方、親子関係に影響を与えるだけでなく、人体の尊厳そのものにも深く関わる問題を引き起こす。

匿名卵子による体外受精は国内初とはいえ、国内法が未整備の現状で、なぜ今の時期にこれを公表したのだろうか。もしかすると、第三者を介した生殖補助医療について定めた民法特例法案骨子が、6月下旬に自民党内の合同会議でまとめられたことが、背景としてあるのではないか。

この法案骨子は、卵子提供や代理出産の場合は産んだ女性を母とし、精子提供では提供者でなく夫を父とするものとしている。それはあくまで親子関係の混乱を防止するための立法的措置であり、基本的には代理出産や卵子提供の現状を法律的に追認しようとするものだ。

この骨子に従えば、今回のケースも卵子の提供を受けて産んだ女性が母親になるだろう。実際の法案提出はまだ先の話だというが、医療技術の進展に伴って民間組織が抜け駆け的に行ったことを、法制度の整備が後追いしていく構図は何とかならないものか。

一つ確実にいえるのは、法や倫理が科学技術の進展にどうしても後追い的になってしまうのに対して、宗教の場合、その教えがいずれも時代を超えた真理であるが故に、世論に対して先回りして何らかの指針を出しておくことができるということだ。どの宗教も人間の生命について確固たる価値観を有しているからである。

そもそも人間の生命は、一人一人に与えられた神仏からの賜物であり、人間の都合で無制限に自己決定権を行使してもよいというものではない。生殖・出生とは、新しい生命がこの世に生まれてくる神聖な場面だからこそ、まさにこのことがいえる。

宗教者は、それぞれの教えに基づく生命観から積極的に応答し、自らの救済観を積極的に提示していくことが求められよう。その際に原則論のこうした主張と共に、臨床的対応においては相手の思いを受け止め、寄り添っていく姿勢もまた忘れてはならない。