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百田発言の危険性 人間が格闘すべき問題

2015年7月1日付 中外日報(社説)

自民党若手議員が主催する「文化芸術懇話会」(6月25日)の初会合に講師として呼ばれた百田尚樹氏の発言をめぐって、議論が沸騰している。政府に批判的な沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない、と発言したとされるからである。その後、同氏はツイッター上で、本当につぶれてほしいのは朝日、毎日、東京新聞であるという趣旨の発言をしている。

このような意見を持つ作家がいること自体は特に驚くべきことではない。だが、こうした考えの持ち主を政権与党のメンバーが講師に呼ぶということ、同氏が一時期NHKの経営委員であったこと、同氏に共鳴する人々も一定数いること、これらは見過ごせない。

日本の過去について批判的視点を交えて検討したり、他国の立場も考慮して国際関係を考えたりすると、反日とか自虐史観とか、大げさなレッテルを貼って攻撃する人々の存在は決して軽視すべきではない。これは日本だけでなく、どの国、どの地域においても、人間が格闘しなければならない根本的な問題に関わっている。

最近の進化心理学、進化生物学あるいは脳科学といった研究は、人間が誰でも「爬虫類脳」と呼ばれることもある古い脳(脳幹や大脳基底核など)の部分からの指令に支配される可能性があることを明らかにしつつある。それぞれの人の反応形態の違いは、どの程度の環境の刺激で爬虫類脳が支配的になるかによる。それ故こうした発言の影響の怖さは、いまだ法律もなく国際協定もなく、ひたすら自身と自身の所属する集団の安全のみを基準に行動していた時代の反応に、一瞬にして人を運んでしまう可能性を持つことだ。

百田発言とヘイトスピーチは、このような見方からすると同じ危険性がある。それが論理的に正しいかどうかは関係なく、ある状況の下では短期間のうちに、多くの人が持つ古い脳の部分を刺激するからである。国際的なテロ活動が思いもかけぬ広がりを示すことがあるが、そうした時も、このような力学が働いているであろうと推測される。

例えば日本で女性が選挙権を得たのは第2次大戦後である。今では当然の男女平等の権利さえ、ホモサピエンスの歴史を考えればごく最近に実現されたものだ。つまり、人間はそれほど強く文明以前の時代の力の影響をこうむってきたということである。

宗教はそれを克服していく目的を持っていたはずだ。人間の行動が文明以前の力に支配される恐れは常にある、ということは肝に銘じておかなければならない。