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戦争とPTSD その責任は誰が負うのか

2015年6月3日付 中外日報(社説)

第2次世界大戦中の戦闘で、米軍歩兵のうち敵兵に発砲したのは2割以下、大半の兵士は負傷者の救出や武器弾薬の搬送、伝令など、銃撃よりむしろ危険な仕事を望んだ。日本軍の決死の突撃に遭った際も例外ではない。敵の死傷者の多くは機関銃や砲爆撃、つまり生身の人間を認識しにくい距離での攻撃による。平均的な人間は本来、戦場という極限状態でも相手の顔が見えるようだと人を殺すことにそれほど強い抵抗感があるという。

筑摩書房刊『戦争における「人殺し」の心理学』から引いた。著者は米国ウエスト・ポイント陸軍士官学校の心理学教授も務めた元米陸軍中佐。実戦での数々の実例を踏まえた著作でピュリツァー賞候補にも挙がったようだ。

殺さねば殺される戦場で、なぜ宗教的な心の働きが表れるのか。同書は歴史をたどり「人間は分かちがたく相互に依存し合い、一部を傷つけたら全体を傷つけると理解する力が本能的に備わっている」との仮説を立て「この力があればこそ、人類はこれまで存続してきた」と結論付けた。歴戦の軍人が説く、縁起思想にも通じる所説は驚きだが、戦争を遂行する国家や軍はそれでは具合が悪い。

戦後、米軍は兵士が人型の標的を見たら条件反射的に瞬時に発砲する訓練を徹底し、米兵の発砲率はベトナム戦争で9割以上になった。人間の殺人機械化だが、深刻な副作用が生じた。残虐な殺人行為や恐怖がトラウマとなり兵士の心が壊れていく、いわゆるPTSDである。ベトナム帰還兵の3割にその症状が見られたという。

同書は前世紀末に書かれた。その後、米国はアフガニスタンやイラク戦争を行いPTSD兵は再び社会問題化、脳損傷後遺症も含めその数は50万人に及ぶ。罪責感から日々悪夢に苦しみ、幻覚におびえ無気力あるいは暴力を振るい、社会復帰が難しい。離婚・一家離散も珍しくない。毎年数百人が自殺する。イラク戦争は10万人もの婦女子らを殺害、大義なき戦争であったことも心の負担に拍車を掛けた(亜紀書房刊『帰還兵はなぜ自殺するのか』などによる)。

さて、日本の国会で審議中の安全保障関連法案は、そうした紛争地域に自衛隊派兵が想定される。政府は米軍などへの後方支援というが、対テロ戦争に前線はない。安倍首相は自衛隊員のリスクが高まるというのは「木を見て森を見ない」議論と言ったそうだが、森は1本1本の木から成る。個々の命の重みや心の機微に慎みを欠く思考は、次々と特攻隊を送り出した旧軍部の発想と変わらない。