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「いつか来た道」では? 何かおかしいメディア状況

2015年2月27日付 中外日報(社説)

1933(昭和8)年8月、陸軍が東京上空で大規模な敵機迎撃演習をし、信濃毎日新聞が「関東防空大演習を嗤う」という評論を載せた。それが軍部や在郷軍人会の怒りを買い、不買運動で筆者の桐生悠々は社を追われた。戦後70年たって今、マスメディアの状況は当時と似通ってきた、と憂える人々が増えている。

桐生は反骨のジャーナリストだった。灯火管制までした演習の狙いは人心の統率にもあっただろうが、評論は木造家屋の多い東京は爆弾で一挙に焦土化する、敵機を帝都の空に迎え撃つ事態は敗北と主張した。45年3月10日、10万人もの犠牲者が出た東京大空襲で指摘は不幸にも的中する。

桐生は「万機公論に決すべし」の御誓文を奉じ、評論も穏当な内容だった。演習の前年に「五・一五事件」があり、自由な言論が抑圧されていく時代とはいえ本来なら結束して戦うべきだった言論界は桐生を見殺しにした(例えば保阪正康、半藤一利『そして、メディアは日本を戦争に導いた』東洋経済新報社)。そんな日本のジャーナリズムのひ弱さは現代も変わらないではないかと、同書は昨今のメディアへの懸念を隠さない。

著名な知識人らがこのほど、約1200人の賛同を得て「翼賛体制の構築に抗する」言論人らの声明を発表した。日本は同調圧力の強い社会だ。特にイスラム過激派による対邦人テロ以降「非常時には国民一丸となるべきだ」などの言説が表れ、メディアの政権批判も自粛ムードの感がある。声明は「70数年前もこうしてモノ言えぬ空気がつくられ、破滅へ向かったのではなかったか」と訴えている。

東京新聞(2月10日付)によると憲法学の小林節・慶応大名誉教授や元経産省官僚の古賀茂明さんらが、今の世相は政権批判にヒステリックに反応し病的、などと募る危機感を語ったそうだ。

朝日新聞の慰安婦報道をめぐり右派メディアを中心に激しい「朝日たたき」が、慰安婦問題の本質を置き去りにして沸騰したことは記憶に新しい。安倍政権に危惧される復古的な歴史認識は近隣諸国との対立を深め、メディアを介して排外主義を刺激していると、外国人記者も危ぶむ。ニューヨーク・タイムズのマーティン・ファクラー東京支局長は「バブル以降、日本のメディアが今ほど危険な状態はなかった」という(アストラ社刊『マスコミ市民』2月号)。

寛容さを失い、とげとげしさを加える世である。メディアにとらわれず、冷静に世界を見通す目を宗教界は求められているようだ。