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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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知と情報の信頼喪失 求められる宗教的洞察の力

2014年10月24日付 中外日報(社説)

2010年代前半の日本の精神状況で特筆されるのは、「信頼の喪失」ということだろう。東日本大震災と福島第1原発事故からSTAP細胞騒動、特定秘密保護法の制定、NHKや「朝日新聞」等のマスコミ批判に至る経緯を振り返って、その底流をこう捉える。

原発事故では「メルトダウンは起きていない」「健康影響はない」などの言説が繰り返され、多くの市民は「御用学者」の力が強いことに衝撃を受けた。その後、薬の臨床研究や革新的な医療技術の開発などの分野で、経済的な動機を持った激しい競争の中で、真実が歪められていることをうかがわせる事態が相次いでいる。

原発事故ではメディアの信頼も揺らいだ。「安全神話」を広めるために、電力会社や原発推進側がメディアを誘導する工作を行ってきたこと、それは事故後も続いていることが広く知られるようになった。歴史認識をめぐる報道でも政治的な立場や圧力によって歪んだ報道がなされているのではないかとの疑いが解けない。批判する側こそが偏見の虜になっているかに疑われることも多い。

単に科学・学術とメディアが信頼できないというのではない。背後に政治的な力が働いて、その次元で真実が通りにくい環境が形成されているという事態がある。それは日本の現政権の問題というだけではない。世界的に政治的な力によって真実が歪められるという事態が深刻化しているようだ。

しかし、そうとは言っても、もちろん真実を見分けることが不可能というわけではない。学者やジャーナリストには真実を取り戻すためにこつこつ地味な努力を重ね、よい仕事を積み上げている人たちがいる。流通する知や情報の質が誠に千差万別で甚だしい混乱状態のように見えるが、真実に近づいていく力は常に働いている。だが、それを感知し、そこにアクセスし、信頼できる知や情報を得る道筋が見えにくいのだ。

こうした状況は現代世界の社会組織全体の仕組みに由来するものだ。知や情報の真実性と、政治的経済的な力の関係が適切なものになっていない。政治経済を重んじるため、知や情報を歪める仕組みが強いということだ。知や情報の信頼性が失われれば、長期的に見て政治や経済に大きな打撃が加わる。そのことが分からずに、手近な利益に引きずられてしまう。

永遠の真理を求める宗教は、この事態を傍観してはいられないだろう。知や情報の真実性を高めるために大いに貢献できる場があるはずだ。宗教的洞察の力が求められている。