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「遺言」といのち「原発さえなければ」

2014年7月18日付 中外日報(社説)

人間が生きる闘いの力の素晴らしさを、ドキュメンタリー映画「遺言 原発さえなければ」は実感させる。東電福島原発の事故で避難を強いられ、生活を破壊された飯舘村の人々を800日にわたって追った記録で、表題は事故を苦に自死した酪農家の「遺書」から来る。もちろん、犯罪的な事故と事後処置をめぐり東電や国、行政を鋭く告発した内容ではある。だがその上に、棄民政策とも言うべき苦難を乗り越えて「生きてやるぞ!」という強い思いがひしひしと伝わってくるのが圧巻だ。

事故直後の大混乱、何も知らされない住民の被曝と村の汚染状況から始まり、線量計のアラームがけたたましく鳴る不気味さが衝撃的だ。苦労して守り続けた土地を追われて家族がばらばらになる。村内の多くの酪農家は、絞った原乳を出荷停止で毎日捨て続け、揚げ句に全員が廃業に。長年育てた牛をやむなく処分するため、蜜を飲ませて「ごめんな」と涙で送り出す場面が胸に突き刺さる。

「先祖から47代も積み上げてきたのが終わりだ。放射能だけは頑張りようがねえ」。村外へ避難の日、仏壇を前に「悔しい。ご先祖に守ってほしいが、もうご飯もあげられんで申し訳ない」と号泣する老女。観ていて熱いものと怒りが何度も込み上げる。

そして終章、牛舎の壁に「原発さえなければ」とチョーク書きが残る自死現場。遺族の姉が、訪れた政治家に「誰に向かって言ってるか分かりますか。国ですよ!」と訴える。リアルな映像は、震災の年の秋に現場へ取材に訪れて感じた苦の叫びと同じだった。

鑑賞者に共感を呼ぶのは、カメラのこちら側の作者と向こう側の人々が深く共鳴しているからだ。それは、一くくりの「被災者たち」ではなく、一人一人の名前のついた物語だからでもある。最汚染地区の青年は「東電をブッ飛ばしてやる」と吐き出した言葉、そして自死者の「残った酪農家は原発に負けずに頑張って下さい」との遺言を実行するように復興牧場の中心を担う。老人は一人で開墾した畑に7年後に収穫する野菜の種をまく。横浜の酪農会社に転職した女性は故郷へ戻る日を目指す。

いのちを圧殺する原発、それをなおゴリ押しする動きをはねのけようと生きる人たちの姿は、国やそれに追随するマスコミが垂れ流す、基幹エネルギーだの経済効率だのという絵空事を吹き飛ばす迫力に満ちる。3時間45分の大作が少しも長く感じられず、この人々がこれからどう生きるのか、何時間でも見続けたくなる。上映予定は作品の公式サイトで。