ニュース画像
参列者が念仏を称える中、伊藤門主は1292霊の法名が記された御回向帳を1枚ずつ手繰った
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

新出生前診断1年 なお残る「選別」への懸念

2014年5月28日付 中外日報(社説)

妊婦の採血で胎児の染色体異常の有無を調べる新型出生前診断の臨床研究の開始から、約1年たった。検査の利用者は8千人近くに上り、妊婦・家族への不十分なカウンセリング体制や精神的ケアの在り方など課題が明らかになってきた。

検査を行う医療機関の医師らでつくるグループが1年間の検査結果をまとめ、4月に発表した。報道によると検査を受けた妊婦は7775人。平均年齢は38・3歳だった。全体の1・8%に当たる141人が染色体異常の疑いがある陽性と判定された。陽性の場合、結果の確定にはさらに羊水検査が必要となる。開始から半年間の集計では約3500人の受診者中、56人に異常が確定し、うち9割以上が人工中絶を選んだという。

新型出生前診断は、従来の羊水検査などと比べ妊婦に流産の危険がなく、検査も簡単で高精度という利点がある一方、安易な人工中絶の増加など「命の選別」を助長し、障害者排除につながるという懸念が当初から指摘されてきた。

本紙がコメンテーターを委嘱する宗教者ら48人に実施した昨年5月のアンケートでも「胎児の生まれる権利の否定」などの理由で出生前診断を容認できないとする回答が過半数に達している。こうした懸念は解消されるのか。導入1年を機に、診断の意味をあらためて問い直す必要がある。

臨床研究は、日本で整備が遅れている遺伝カウンセリング体制の充実に向けた基礎資料を得るために、日本医学会が認定する国内41の医療施設で実施されている。検査の対象はダウン症と13、18トリソミーという3種類の染色体異常で、受診者は検査の前後に遺伝カウンセリングを受けることが義務付けられている。

検査を受けた方が良いのか。検査の結果をどう受け止め、判断すればいいのか。妊婦や家族の精神的負担や悩みは大きい。こうした中、現状のカウンセリングに対しては、時間が短い、話が医学的な知識に終始しているなどの声が上がっている。胎児に異常があれば中絶することを検査前から決めている妊婦も多いという。医師など専門職が行う現状のカウンセリングが受診者の問い掛けに十分応えているのか検証すべきだろう。

中絶率の高さはカウンセリングだけの問題ではない。日本は欧米と比べて公費支出の低さなど障害者政策の遅れが指摘される。染色体異常など障害のある子を安心して産み育てることのできる社会にすることが何より大切だ。

全ての命を育む社会に向けて宗教界の発信が望まれる。