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地域の疲弊こそ深刻 国を守るのは軍事力だけか

2014年5月21日付 中外日報(社説)

性急に集団的自衛権の行使容認を迫る安倍晋三首相の主張は、時の政権が憲法の根幹を恣意的に覆す道を開く点に安全保障論を超えた問題の重大さが潜む。憲法は国家権力の専横にタガをはめる最高法規だ。それが歴史に培われた立憲主義の国際理解とされる。

日本は戦前、政党の抗争に乗じた軍部の暴走を許し、破局に突き進んだ。軍部は明治憲法にも明記されていない「統帥権独立」をやりたい放題の口実にしたという。その苦い経験の再来を恐れる。

国際情勢の変化で必要が生じたというのなら憲法改正の王道をとるべき、という意見は正論だ。日本の憲法は改正のハードルが高過ぎるとする反論があるが、諸外国の憲法に比してさほど差があるわけではない。要は正確な情報で判断しないと、誤った道に誘い込まれ、泣きを見るということである。

もう一つ、安倍首相の自衛論に抜け落ちている視点を挙げておきたい。国を脅かすものは外敵だけではないという単純な事実だ。

集団的自衛権論争の報道が過熱する中で、深刻なデータが公表された。全国の自治体のほぼ半数の896自治体が、2040年までに出産適齢の「20~39歳の女性人口」の大幅減で最終的に「消滅」の可能性が生じる事態になるというものだ。産業界や学界有識者らでつくる「日本創成会議・人口減少問題検討分科会」(座長=増田寛也・元総務相)の推計である。

過疎化の進行で、つい先年「限界集落」という造語を耳にした。最近はそれを飛び越えて「消滅集落」とか「地方消滅」とか、末世を思わせる言葉を聞く。そんな折にこの有識者団体は「極点社会」という独自の概念を提起した。地方の特に若い女性の大都市圏への流出が加速、一方で最も子どもを産みにくい東京はますます巨大化する。その結果、国全体の人口減少スパイラルに拍車がかかるが、大都市だけは残るという近未来のいびつな日本列島の姿をいう。

安倍首相は集団的自衛権行使の必要を説く記者会見で「日本人の命を守ることが首相の責任」と見えを切った。この発言に違和感を持ったのは、軍事のみが国民の命を守るという信仰のようなものを感じたからだ。集団的自衛権をどう行使しても人口分布の極端な偏りで生じる国土の荒廃は防げまい。

故郷は人々の命をはぐくむ。福島第1原発の事故も地域の疲弊が遠因だった。識者は「極点社会」防止にはあらゆる政策手段の動員が必要で「時間との競争」と力説する。地域を守れなければ、どんな国防論も本末転倒である。