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「広島宣言」の成果 頓悟に通じる漸悟を

2014年5月9日付 中外日報(社説)

「漸悟・頓悟という仏教用語がある」という書き出しのエッセーを読んだ。筆者は羽毛田信吾・元宮内庁長官である。「徐々に悟るのが漸悟、一挙に悟るのが頓悟。生活体験として、思い当たることがある=要旨」と記す。

子どもの時、自転車に乗れるようになったのは頓悟的体験であったが、教科の学習は漸悟的に進んだ。退官後の農作業で植物を育てる快感は、十数年を経て得られた「私の漸悟」だという。

このエッセーを読んで、先日の歌会を思い出した。元小学校教員の女性が示した作品である。恩師として招かれた同窓会で「とっちゃん」という教え子が「ゴールド免許証をもらった」と報告した、という内容だった。

重機運搬を職業とする「とっちゃん」が5年間、無事故・無違反を貫いた成果だ。

「率直に言って『とっちゃん』は、できる子ではなかった。在学中、励まし続けたのですが……。大型車両の運転での無事故・無違反は、よほどしっかりしていないと達成できません。うれし涙と共に拍手をしました」

どの子にも長所はあるものだ。ゴールド免許証は、教室で頓悟に縁のなかった「とっちゃん」がつかんだ、社会人としての頓悟ではなかっただろうか。

さて4月中旬、広島市で、核兵器を持たない12カ国による軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合が開かれた。核兵器の非人道性を指摘するとともに、全ての核保有国に対し、多国間交渉の必要性を提唱する「広島宣言」が採択された。

これに対し広島や長崎の被爆者団体からは、核禁止条約推進への言及がなく、具体的な提案も盛り込まれていない、との意見が出された。頓悟的な成果を期待したのに、漸悟にとどまったとの印象からであろうか。

だが、1年前を思い出してみよう。昨年4月にジュネーブで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第2回準備委員会で、日本は「核兵器の人道的影響に関する共同声明」への署名を拒否した。米国の核抑止力に守られているという現実認識からだった。しかし今回は、12カ国の先頭に立って外相会合を主導した。大きな前進ではないだろうか。

各国の外相も、広島の原爆資料館を見学して、認識を新たにしたようだ。「広島宣言」のトップには「世界の指導者は広島・長崎訪問を」との呼び掛けがある。漸悟的な経過が遠回りのように見えるとしても、結局は頓悟を実現する道であると信じたい。