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反知性主義の問題 非寛容の増殖を危惧

2014年4月11日付 中外日報(社説)

国語辞典にもない反知性主義という言葉を、論壇の一部で耳にする。多様化する現代社会では「一つの意見には必ず反対の意見がある」といわれるほど、物事の考え方は人それぞれに違う。だが、反知性主義は不都合な事実や異なる意見は無視するか排除し、短絡的な自己の主張のみに人々の同調を迫る。論者により多少の差異はあるが、おおむねそのようなものと理解され、社会の主潮流になりかねない新たな時代風潮と危惧されている。他者の立場を顧みない非寛容な心の増殖が背景にあり、宗教界とも深く関わる問題だ。

反知性主義は1950年代の米国で起きた、共産主義の脅威を誇張し知識人も標的にしたマッカーシズムの衝撃により描かれた書の邦訳本『アメリカの反知性主義』で知られるようになった。筆者は7年前に出版された『幼児化する日本社会』(榊原英資著、東洋経済新報社)の副題「拝金主義と反知性主義」でこの言葉を知った。同書の論点は幅広いが、特にテレビの悪影響を挙げる。視聴率狙いの低俗化や素人コメンテーターが何でも白か黒か「ズバッ」と斬ってみせる浅薄な二分割思考が視聴者の考える力をマヒさせ、子どものいじめに似た少数派を認めない社会の雰囲気を醸成すると説く。

思慮を欠く善悪二元論には看過できぬ問題が潜む。ただ、昨今の反知性主義は、いわゆる「嫌中憎韓」やヘイトスピーチに見る偏狭な排外主義の高揚と関係するという。領土争いで高まった国民のナショナリズムを、安倍首相の靖国神社参拝や慰安婦問題をはじめ一連の「右寄り」路線が刺激し、関係各国が互いに共振するように対立を深め合っている。それが政権の求心力を高める結果になっている感すらあり、平和外交重視を訴えるリベラル知識人やメディアまで嫌悪の対象にされがちだ。

国内の反知性主義者には、日本が近現代に近隣国と切り結んだ侵略と植民地化の歴史知識が抜け落ちている印象がある。学校でも近現代史はあまり学ばないと聞く。「見るべきものを見ない」状況では冷静な論争が生まれず、感情に走り偶発戦争を招きかねない。東アジアで高まる緊張をそう危ぶむ声が諸外国で聞かれるという。

ここで東西ドイツの統一を果たし、ヨーロッパの平和に貢献したワイツゼッカー元独大統領の有名な言葉をいま一度思い出したい。

「過去に目を閉ざす者は現在にも盲目となる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者はまたそうした危険に陥りやすい」

今も世界的に語り継がれる名言である。