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民衆に害があれば全て為政者の責任

2014年3月15日付 中外日報(社説)

PM2・5の大気汚染が深刻だ。中国大陸から西風に乗って日本列島に飛来し、わが国を覆う大気の汚染濃度は各地で急激に上昇する。2月26日はとりわけひどく、大阪でも環境省の暫定指針値を超える恐れが生じたため、注意喚起情報が初めて発令された。

同日のある新聞の朝刊は、「習主席、大気汚染の北京で深呼吸」との見出しの囲み記事を載せていた。それによると、その前日の25日、中国国家主席の習近平氏が北京市中心部の街頭に姿を現し、市民と一緒に空気を吸ったとのことである。

この新聞記事を読んで反射的に脳裏に浮かんだのは、記憶の片隅にとどめていた『貞観政要』の唐の太宗に関する一話であった。

『貞観政要』は8世紀唐の玄宗時代の史官であった呉兢の撰。貞観は唐の第2代皇帝太宗の年号であり、その序に「太宗の時、政化は良に観る可きに足り、振古より来、未だ之有らざるなり(太宗の時代、政治教化はとても素晴らしく、古往今来、未曽有のものであった)」と述べられているように、名君の誉れ高い太宗と太宗を補佐した名臣たちを賛美する記事で満たされている。その論務農篇に次の記事がある。

628(貞観2)年、都の長安は連日の日照りに見舞われ、蝗が大量に発生した。太宗は稲の生育状況を確かめるべく宮城内の御苑に赴き、数十匹の蝗を捕まえると次の呪文を唱えた。「民は穀を以て命と為すに、而るに汝は之を食らう。是れ百姓(人民)に害あり。百姓に過ち有れば予一人に在りと。汝其れ霊有らば、但だ当に我を食らうべし、百姓を害すること無かれ」。そのように唱え終わると、やにわに蝗をのみ込もうとした。側に控える臣下たちは驚き、「きっと病に侵されます。なりませぬ」と諌めたが、太宗は「願うのは災害を朕の身に移さんこと。病を避けようなどとは思わぬ」と言うなり、のみ込んでしまった。

「百姓に過ち有れば予一人に在り(民衆に何か不都合があれば、それはすべて我一人の責任である)」とは、古代中国の聖天子とされる堯帝の言葉として『論語』堯日篇が記録するところである。唐の太宗は堯帝を気取るのだ。

『貞観政要』はこのような話を記した上、嘘か実か、「是れに因って蝗は復や災を為さず」と述べているのだが、習近平氏の涙ぐましいパフォーマンスも『貞観政要』が伝える唐の太宗のような効果を期待してのことなのであろうか。