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現場の苦に目向けよ テレビドラマ問題で

2014年2月8日付 中外日報(社説)

カトリック修道会によって設立され、「愛と献身の精神」を理念とする熊本市の慈恵病院が設置している「こうのとりのゆりかご」は、母親が育てられない赤ん坊を捨てるのを防ぎ、緊急避難として預かって命を救う取り組みだ。その母親には困り事を相談する道を丁寧に示しており、現実に、保護した乳幼児の5分の1が再び元の親らに引き取られている。

児童養護施設を舞台に設定したという民放のテレビドラマが、子供たちへの偏見につながりかねないとして全国児童養護施設協議会と同病院の抗議を受け、問題になっている。施設の子供が学校で、主人公のあだ名である「ポスト」(「赤ちゃんポスト」から)と呼ばれたり、「お前もどこかにもらわれるんだろう」とからかわれたという事例が各施設で相次いでいるとも報道された。

ドラマは関係者が内容改善を申し入れ、スポンサーが引いたにもかかわらず引き続き放映されているが、実際に観てみると、「お涙」を誘うような演出があり、かわいい子役たちに、いかにもそれらしい演技をさせている面は、こんなセンスもあるのかと思わせる。

テレビ局側は「あくまで創作」と説明しているという。確かに一般的にはどんなに出来の悪い作品にも「表現の自由」は保障されるべきだ。だが、事実関係に疑問が指摘され、現実に児童らの心を傷つける被害を生み出しているとすれば、次元が違う問題になる。

「赤ちゃんポスト」という言い方自体、現状への想像力の貧困なマスコミが勝手に付けた名前だ。慈恵病院はその後、乳幼児保護や児童養護の実情、ドラマの問題点について丁寧な説明をホームページに掲載している。その中の「現場に足を運び取材して頂きたかった」とする項目では、「ポスト」や「ロッカー」といったあだ名の設定は、虐待を受けた子供にフラッシュバックを引き起こす原因になると訴えている。

メディアの社会的責任や表現者としての矜持に立って厳しく困難な現場の状況に関心を向け、何とかしようというのではなく、仮に調べもろくにせず、単に「面白さ」を演出する材料に利用しただけのドラマがあるなら、「表現」としてもレベルは低い。

「目の前で困っている人を救うのは当たり前のことです」との姿勢で「ゆりかご」の運営に当たっている同病院の看護部長は以前、本紙の取材に対して、敬愛するマザー・テレサの言葉を引いて語っていた。「愛の反対は憎しみではなく無関心です」