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経営者に望みたい 宗教的信念の確立

2013年11月16日付 中外日報(社説)

かつて会社勤務をしていたころ、同僚の一人が管理職の末端に連なることになった。直属の上司は「常に印鑑を携帯するように」と指示した。部下がミスをしたとき、管理職は責任を取って始末書を書かねばならない。それに備えて、いつもハンコを持っているべきだ、と。

さらに言葉を継いで「部下のミスを知ったら、すぐ私に報告すること。報告した瞬間に、会社としてどんな善後策を取るべきかの責任は、私なり、さらにその上役に移る。対処の仕方によっては、かえって会社の信用を高める場合もあるのだよ」と説いた。

日本経済が右肩上がりの時代、どこの会社でも、部下の失敗の責任は上役が引き受けるという気風が満ち満ちていた。

5年ほど前、名を知られた料亭で、賞味期限切れのものや、産地偽装の食材を客に供するなどの不祥事が明るみに出た。料亭の女将は当初、従業員や納入業者に責任を押しかぶせようとしたが、ウソはすぐばれる。偽装工作は女将自身の指示だったと判明、信用を失った老舗は顧客に見放されて、廃業した。

この時、世間は、経営規模の小さなその料亭の特異なケースであると見なした。だが昨今、有力なホテルチェーンのレストランで、食材の産地を偽装したり、廉価の食材を高級品と称して調理していたとの報道が相次いでいる。

しかも記者会見に臨んだ経営者は、多くの場合、責任を現場に押し付け、会社としては知らなかったと、言い逃れの構えを見せる。だがやがて、真相告白をせざるを得なくなる。かつての女将の姿勢と同じだ。日本の「食」への信頼は損なわれた。

ホテルだけではない。日本を代表する大銀行が、不適切な融資をした責任を問われて、頭取はいったん「報告が無かった」と言い、程なく前言訂正をする始末だ。ホテルといい、銀行といい、トップが部下をかばうどころか、責任を部下に転嫁する姿勢が露骨に見える。合併や外資提携などで経営の規模は大きくなった企業で、一部の経営者のモラルが低下している。

先日、ある週刊誌に、京セラ創業者・稲盛和夫氏の一問一答記事が掲載された。経営破綻した日航の再建を託された稲盛氏は「利他」の心で取り組んだという。3年間、無給だった。鹿児島の生家は「隠れ念仏」信仰に支えられていた。今の経営者には、このような宗教的信念が必要ではないだろうか、と考えさせられた。