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原発の内部告発本が再稼働論争に一石?

2013年11月14日付 中外日報(社説)

霞が関の現役キャリア官僚が原発再稼働を急ぐ政財官界などの癒着ぶりを描いた小説仕立ての内幕もの『原発ホワイトアウト』(講談社刊)が、異例の売れ行きだそうだ。内部にいないと知り得ない情報を駆使したリアリティーあふれる文章にインパクトがあり、自浄能力の乏しい日本社会の暗たんとした未来を自画像のように見せつけられた気分にさせられた。

日本には原発が必要なのではなく「必要とする」人々がいる。莫大な利権や既得権益漬けになっている人々である。同書は、政界工作などによって再稼働させた北国の巨大原発が暴風雪の日、テロに送電線を狙われ、なすすべもなくメルトダウンするという筋書きで話が進む。再稼働にこぎ着けるため慎重派の知事を失脚させ、原発の安全性については欧米のみならず中国でも導入されている規制基準の採用を見送り、除雪対策も送電線の安全性も周辺住民の避難計画も不十分なままひた走る――。

ホワイトアウトは吹雪などで視界を失った状態をいう。本の題名は原発が天災に意外なぜい弱さを露呈することを暗示しているのだろう。だが、破局を迎えてもなお原発を「必要とする」人々は執着を捨てない。同書の終章に「フクシマの悲劇に懲りなかった日本人は、今回の事故でも、それが自分の日常生活に降りかからない限りは、また忘れる。喉元過ぎれば熱さを忘れる。日本人の宿痾であった」という文章がある。「日本の裏支配者とも言える(原発を支える)モンスター・システムは、時を経ずして息を吹き返すことであろう」と締めくくられる。

著者「若杉冽」は偽名である。公表されているのは東京大法学部卒、国家公務員1種試験合格、霞が関の省庁勤務だけ。著者へのインタビュー記事が一部全国紙(毎日新聞東京版10月22日、大阪版同30日各夕刊など)に掲載されている。原発再稼働を目指す電力業界や官界、政治家らの話のウソを数多く知り、公僕としてそれを国民に知らせる責任があると思ったと執筆の動機を語っている。著書の内容は直接見聞きしたことと間接的に聞いたことが半々。原発規制基準が中国にも劣るという根拠を具体的に示している。守秘義務があるから小説の形にした。

電力業界が外部に発注する金額は年間5兆円、うち400億円が業界団体に還流され、使途が自由な工作資金として政官界や学界、メディア対策などに使われていると同書はいう。それがどのようなことを拝金主義の世にもたらしているのか。考えると恐ろしい。