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問いは投げられた iPSの倫理問題

2013年8月24日付 中外日報(社説)

再生医療や創薬への応用に期待が寄せられているiPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った世界で初めての臨床研究が、1日から理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)と先端医療センター病院(同)で始まった。

目の網膜に異常がある難病患者を対象に、患者の皮膚細胞から作ったiPS細胞を網膜の細胞に分化させ、シート状にして移植し、安全性を調べる。新たな治療法として確立されるまでにはまだ長い道のりを要するが、臨床応用への大きな一歩だ。

iPS細胞を使った新たな臨床研究は今後、次々と実施されることになるだろう。その一方でiPS細胞を作製しノーベル賞を受けた山中伸弥・京都大iPS細胞研究所(CiRA)所長は、研究に伴う生命倫理上の問題についても繰り返し指摘している。

一つはiPS細胞に由来する生殖細胞を使った不妊症の研究だ。マウスのiPS細胞では精子と卵子の作製に成功しており、理論的には人間の皮膚や血液から作ったiPS細胞で精子・卵子を作り、新たな生命を誕生させることも可能となった。

もう一つはiPS細胞を用いて動物の体内で人間の臓器を作る研究で、再生医療への応用が期待されている。すでにラットのiPS細胞由来の膵臓を持つマウスが作り出された。ラットとマウスという異種動物間での臓器作製に成功したことは、ブタなどの大型動物の体内で人間の臓器を作ることも可能と考えられている。

CiRAは4月、実践倫理宏正会傘下の上廣倫理財団の寄付を受け、所内に上廣倫理研究部門を設置した。iPS細胞に関わる倫理的な問題の解決策を提案し、社会に発信する機関で、3人のメンバーが研究を進めている。7月にはiPS細胞の生命倫理問題を考えるシンポジウムを開き、山中所長は「研究者だけでなく社会全体で議論すべき問題だ」と訴えた。

宗教界では、諸宗教の約30教団でつくる教団付置研究所懇話会がiPS細胞の倫理問題について意見を交わしているが、教団間で検討の進み具合に差があり、議論は深まっていない。

同部門メンバーの八代嘉美・CiRA特定准教授は3月に懇話会の生命倫理研究部会で講演し、科学者と宗教者の対話の必要性を説いた。7月のシンポでは自らの講演後、「宗教界からの発信が少ない(ので期待したい)」と話した。

研究は日進月歩だ。山中所長らの問い掛けに、宗教界の答えと発信が求められている。