ニュース画像
参列者が念仏を称える中、伊藤門主は1292霊の法名が記された御回向帳を1枚ずつ手繰った
主な連載 過去の連載 エンディングへの備え
苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
購読のお申し込み
新規購読キャンペーン
紙面保存版

原爆資料館の人形を撤去することの是非

2013年7月25日付 中外日報(社説)

新潟県・佐渡の金山跡の坑道を舞台にした推理ドラマを見た。展示されている労働者の人形に紛れて待機していた刑事が、名探偵に誘導されて現れた犯人を逮捕、との筋書きだ。人形が迫真性を持つ姿に作られているから成り立つドラマだった。

迫真性という点では、広島市の平和記念資料館(原爆資料館)にある3体の人形が注目を集めている。被爆直後の母子をかたどった人形は、昭和48(1973)年から展示、平成3(1991)年に現在のものに更新された。

40年にわたり"あの日のヒロシマ"を端的に物語る資料とされてきた。しかし来年夏ごろに始まる資料館の改修・改装工事に伴って撤去されるという。被爆者をはじめ市民の中には「なぜ撤去するのか。展示を続けるべきだ」との意見もあるらしい。

広島には、資料館の運営主体である公益財団法人・広島平和文化センター(会長=松井一實・広島市長)の委嘱を受けた人々をはじめ広島の実情を語り伝える"被爆体験証言者"が多い。平和学習を兼ねて修学旅行で広島を訪れる児童・生徒に対応するのは、この証言者たちである。

今年に入って開かれた証言者たちの会合の場でも、一部から「被爆人形の展示があるから、初めての来訪者にも私たちの話が理解してもらえる」と、人形撤去反対論が出されたという。

最近の報道によると、小学生の中には、被爆人形を見たショックで泣きだす者もあるとか。無理からぬことだ。しかしその一方では「私の体験したヒロシマは、もっともっと悲惨だった」と回想する被爆者もいる。

こうした事情から資料館は、数年にわたって来館者からアンケートを集め、また検討委員会を設けるなどして、よりよい展示内容を実現する方策を練ってきた。その結果固まったのが、遺品・遺物を中心とした"実物展示"に徹することだ。被爆人形は"作り物"で必ずしも実相を伝えていない、との立場らしい。資料館側は「見る人にショックを与える展示を避ける意図はない。ショックを与えるほどの展示物でないと、核廃絶を目指す"広島の心"は伝わらないからだ」としている。

関係者の話を聞くと、被爆人形の撤去は決定済みとの印象を受けるが、一事不再理ではないとの含みも感じられる。原爆忌を前にして、被爆体験のある宗教者が、市民の立場から意見を出す余地はないであろうか。長崎からの声も聞きたいところだ。