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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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命を産み育てる思い 出生前診断を巡って

2013年7月2日付 中外日報(社説)

新型出生前診断の導入を機に、障害児の出産、養育の問題が注目を集める中、京都の看護専門学校で、助産師を目指す学生たちがダウン症の子供を育てる母親たちの話を聞く授業が行われた。

病名告知を受けた時は「頭が空っぽになり医師に質問もできなかった」「何の予備知識もなくボーッとしてしまったが、母に『大丈夫よ』と言われて初めて涙があふれた」。「告知前には医療者からことさら『かわいい赤ちゃんね』と言われ、告知後は『大変だけど頑張ってね』ばかり言われた。何が大変なの?そんなに頑張らないといけないの?と不安になった」

出生前の羊水検査で次男がダウン症と分かった高松市のIさん(36)は、悩んだ末に産むと決め、周囲には出産を祝福された。だが、病院関係者から「よく覚悟を決めましたね」と声を掛けられた時は、「普通は中絶するのに……」と言われているようでショックだった。同じ境遇の母親たちとネットで交流し、87人の手記を冊子にまとめたIさんは、わが子をあやしながら「子育てが楽しくてたまらない」と学生らに訴えた。

「今は成長がうれしい」と口をそろえる母親たちには、社会的に話題になるずっと以前から困難な道を家族で歩んできた力強さと明るさが感じられた。だが、長女が生後すぐに染色体異常と診断された母親は「生まれて最初に抱いた時、『私のかわいい赤ちゃん』という気持ちより先に『ダウン症ならどうしよう』とばかり考えてしまっていた。今思うと、真っ白な気持ちで抱けなかったのが娘に申し訳なくて……」とハンカチで顔を覆い、教室に涙が広がった。

弱い立場の母親にここまで心労を強いるのは福祉の貧困、社会のゆがみだが、そこで人と人との支えが大きな役割を果たすことも間違いない。しかし、「告知され放り出されたような気持ちで辛かった時、声掛けしてほしい言葉はなかった」との意見も。自ら母でもある学生は「妊婦さんが悩んでいる時、言葉を探すよりも一緒にいて寄り添うことが大事だと実感できました」と話した。震災もそうだが、生老病死の苦によって縁を結ぶことに共通する姿勢だろう。

では宗教者には何ができ、期待されるのだろう。Iさんは「身近ではないし、相談しようとは思いません」と語った。このような問題で社会一般が宗教者や宗教界をどう見ているかを象徴しており、それは宗教界側の問題だ。学生からの「いのちの専門家として心の支えになってほしい」の声を、しっかり受け止めたいものだ。