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息長い展望のもとで作られている仏教書

2013年5月25日付 中外日報(社説)

ある文化教室の講師が話した。「お薦めします。『源氏物語』、『戦争と平和』、聖書、『資本論』。この四つを通読してください。必ず何か得るところがあります」と。受講者は「一つだけ読むのも大変です」と、ため息をついた。もっとも講師自身も、このうち三つしか読んでいないそうだが。

ノーベル賞受賞が近いと期待される作家の新著が、たちまち100万部を売り上げたという。出版業界にとって明るい話題である。しかし一般の書籍は、一部を除いて売れ行きが伸びない。

そうかといって、電子出版が大盛況というわけでもなさそうだ。書物をじっくり読むという習慣が薄れてしまったのか。

ある調査では、書籍よりも雑誌の落ち込みが激しいという。伝統を誇る雑誌の休刊が相次いだのは数年前のこと。最近は創刊早々に消える雑誌も多い。

池井戸潤氏という作家がエッセーに記していた。出版不振の原因は、出版社の側にもあるのではないか、と。大手の出版社で、社員に目標設定も査定もしていないところがある。そのうちベストセラーが出るだろうとの太公望的な安易さが見られると、池井戸氏は示唆していた。

大出版社の編集者と有力作家との座談会記事を読んだ。それによると大多数の作家の収入は、編集者の収入に及ばないのだそうだ。これでは出版業界がぬるま湯的になるのも無理はない。

むしろ最近は、書店の従業員が熱心だ。"本屋大賞"というのがあって、書店の店員が売りたい本のランク付けを投票で決める。その賞に入った本は、必ず売り上げが伸び、ドラマ化されて人気が増幅するという。

本が売れなければ、書店はつぶれる。書店員は真剣に選ばざるを得ない。そのうちに、文壇の大御所が選ぶ既成の文学賞よりも"本屋大賞"の方が権威あるものになるかもしれない。

現在、出版業の中心地は東京だが、京都をはじめ関西には、地味ながら名の通った出版社がある。ベストセラーは追わず、初版2千部、3千部という堅実な経営ぶりだ。ある新聞によると、京都の宗教書専門社の社長は「うちの仏教書は企画に10年、製作に10年、読むのに10年かかります」と語ったとか。

文化教室の講師の必読書の薦めの中には、息の長い展望のもと、京都で作られる仏教書もぜひ加えてほしい。その環境づくりのためには宗教者による不断の教化活動が必要であろう。