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人は無関心に苦しむ パレスチナも沖縄も

2013年5月18日付 中外日報(社説)

数々の文学賞を受賞している村上春樹さんの言葉がよく引用される。例えば「高くて頑丈な壁と、壁にぶつかれば壊れてしまう卵があるなら、私はいつでも卵の側に立とう」。平成21年3月10日付の本欄でも紹介した。同年のイスラエル最高の文学賞「エルサレム賞」受賞スピーチのさわりの部分である。

当時、イスラエルは圧倒的な武力でガザに侵攻、1300人以上のパレスチナ人死者の多くは婦女子や老人らの市民だった。スピーチの「高い壁」は爆撃機と戦車、ロケット弾、白リン弾で、「卵」は押しつぶされる非武装の市民を暗喩し、イスラエルの非人道的行為を批判する意図だったとされる。

パレスチナでは今も強国が軍事力で占領政策を押し通し、構造的な暴力がまかり通る。不条理さに心が痛むが、ここで論じたいのはそのことではなく沖縄問題である。パレスチナは国際世論の、一方、沖縄では本土の世論の、それぞれ無関心が「高い壁」となり人々を苦しめ続けている。その構図が昨今、近隣諸国との対立に伴い一段と顕著になった。沖縄は「日本政府が『基地は沖縄に置く』との本音を隠さなくなった」と憤り、不信感は本土住民にも向き始めた。

最近の動きを振り返ってみる。

米海兵隊のオスプレイ12機が沖縄県ぐるみの反対を押し切って昨秋から順次、普天間飛行場に配備され、県議会、市町村、市町村議会の代表らが今年1月、配備撤回と同飛行場の辺野古移設断念を安倍晋三首相らに求め、東京でデモ行進した。だが、政府は3月に辺野古移設のための海岸埋め立て許可申請を県に行った。

サンフランシスコ講和条約発効で米国統治下に置かれた沖縄には「屈辱の日」の4月28日、県民の抗議行動をよそに本土で「主権回復」を祝う式典が開かれた。式典で安倍首相は「沖縄が経てきた辛苦に深く思いを寄せる努力をなすべきだ」と述べたが、2日後、政府は米軍が新たにオスプレイ12機を今夏、普天間に追加配備することを明らかにした。追加配備は本土の全国紙ではほとんど報じられていないが、沖縄では激しい怒りを招いている。

パレスチナ問題が構造的な暴力なら、沖縄問題は構造的な差別が核心にある。さっき本土住民の無関心と言ったが、それは人の痛みにも、事の道理にも目を向けない「無明」に通じる怠りというべきものである。本土に住む者として心しておかねばと思う。