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物理的世界にひそむ宗教的真理との対応

2013年5月11日付 中外日報(社説)

最近の天文学の進歩は大変なもので、科学的な宇宙像はすっかり様変わりしてしまった。

まず太陽の熱源が水爆と同じ核融合反応だということが明らかにされた。宇宙にはわれわれの銀河と同じような小宇宙が無数にあり、しかも宇宙全体が膨張しているということになった。風船を膨らませるときのように周辺ほど速い速度で膨張していくから、他の銀河全てはわれわれの銀河から遠ざかっていくのだという。膨張を逆にたどるとおよそ137億年前には一点にあったことになる。宇宙はいわゆるビッグ・バンから始まったといわれる。

宇宙は膨張しても重力で引き戻されて収縮に転じるという予想もあったが、どうやらそうではないらしい。宇宙の膨張はなんと時と共に加速されていることが分かった。宇宙を押し広げているエネルギーは正体不明なのでダークエネルギーと呼ばれている。宇宙の空間は真空であるどころか、宇宙が広がれば広がるほど至る所から新しいエネルギーが湧き出てくるという説もある。まさに奇想天外なお話なのである。

現代の天文学と宗教はまるで別物なのだが、妙に似ているところもある。この世には勇猛果敢に戦っている人も、人生に飽きた人もいる。世界の虚無性に戦慄し絶望する人もいる。世界には実在性も意味も目標もない、しかも全ては変化して過ぎ去り、遂には滅びて無となる、というのは一面の真実である。

しかし無は虚無ではない。人がまさに無に直面したところから無限のエネルギーが、つまり生きる意欲と力が湧いてくると告げるのは、仏教やキリスト教のような宗教だけではない。例えばニーチェは無意味の永劫回帰という無意味の極限が開示されたところで「力への意志」を本質とする「生」に出合うのである。

彼はそれをディオニュソスと呼び、それとの出合いによってニヒルの底でニヒルを克服したと語った。ディオニュソスは宗教者を生かす力とはかなり異質のものだが、虚無の底でそれを克服する力に出合ったところが面白い。

無は虚無であるどころか無限の力を秘めているというのは、あらゆる形の絶対化を突破した宗教の告げるところである。形のない宗教的真実を表現するための比喩として世界の出来事を用いるのはしばしばなされるところだが、世界が宗教的真実の比喩となり得るとすれば、物理的世界と宗教的真実の間にはある対応が潜んでいるのかもしれない。