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TPPで格差が拡大 医療援助団体も反対

2013年4月16日付 中外日報(社説)

「国境なき医師団」は途上国への医療援助を行う、世界的に有名なNGOである。フランスで設立され、日本を含む主要諸国に支部を置き70カ国で活動、1999年ノーベル平和賞を受賞した。

同医師団は日本が交渉参加を決めた環太平洋経済連携協定(TPP)に反対している。途上国の貧しい子どもたちなど患者の「命をつなぐ」安価な医薬品が入手できなくなりかねないからという。

空港に医薬品などを備蓄し、世界中どこでも救援が必要な事態が生じたら人道的立場で24時間以内に医療チームを派遣するのが団のモットー。二十余年前、日本に支部を開くため調査に来た幹部を取材した際、多数の死傷者が出た天安門事件で香港に待機したチームが中国政府に入国を阻まれたことをずいぶん悔やんでいた。

TPPへの反対は、多くの医薬品の特許を持つ米国が特許期間の延長などで安価なジェネリック薬の流通を阻害する制度運用を交渉参加国に求めているからだ。TPPは交渉過程が非公開だが、米国NGOが入手した米国政府の内部文書でそれが分かったという。途上国の医療援助にジェネリック薬が不可欠なことは、例えばエイズ治療薬の価格の大幅低下でアフリカでは数百万人ともいわれる命が救われたことでも明らかだ。同医師団は米国に要求の撤回とTPPの交渉の透明化を求めている。

実はこの問題は途上国に限らない。先日、長野県で地域医療を担う医師らを神戸に招いた集いでも日本のTPP参加で「米価は下がるが、薬価は上がる」と懸念が噴出した。薬価アップに伴い医療費も上昇、しわ寄せで人員削減など医療現場の荒廃は必至という。

集いでは米国で一般的な高額医療の自由診療と健康保険が使える保険診療を組み合わせた混合医療の導入圧力がTPPで一段と強まるという不安も指摘された。米国では貧血で2日入院だと約180万円、がん治療で数千万円かかるといわれるが、そんな自由診療が持ち込まれると医療格差が広がり日本が誇る国民皆保険も崩れる。今でも医師不足に悩む地域医療は壊滅するという心配である。

生活を支える重要な領域の存立基盤をTPPが掘り崩す危険性があるのは農業ばかりではない。

TPP参加の損得を輸出産業と米作農家の対比という図式に矮小化し、さまざまなデメリットの可能性を伝えることに必ずしも熱心ではない感のあるマスメディアの姿勢には違和感がある。人々の生活を一変させる可能性が潜んでいる。慎重な報道を望みたい。