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対馬の仏像盗難問題 良識ある対応に期待

2013年4月4日付 中外日報(社説)

長崎県対馬市の臨済宗南禅寺派の寺院から昨年秋、本尊が盗まれた事件が憂鬱な国際問題になろうとしている。国境に近い島での文化財盗難事件とその後のトラブルといえば、過去の例から、地元の人々は既視感を持つかもしれない。しかし、今回は宗教者が関わっているだけに、重苦しい気分にならざるを得ない。

対馬の隣島・壱岐では平成6年に大徳寺派安国寺の高麗版初雕本大般若経(国指定重要文化財)が盗まれ、8カ月後に盗品の一部である可能性が高い初雕本大般若経のうちの3巻が韓国の国宝に指定されるという事件が起きた。

当時、韓国政府文化部の文化財委員だった韓国書誌学界の長老が、日本国内の諸寺院が所蔵する高麗版大蔵経等を調査し、自著の中で安国寺大般若経について詳論していたという事実もあって、大蔵経に詳しい研究者などの間で疑惑と不信感が広まった。

日韓の仏教学術交流にも水を差す深刻な問題だったが、こうした不信感を乗り越える形で、平成18年に韓国の高麗大蔵経研究所と日本の花園大国際禅学研究所による南禅寺蔵一切経の共同調査が韓国側の強い要請で始まった。

高麗大蔵経初雕版開版1000年に当たる2011年前後に研究成果はネットでも公開され、南禅寺が高麗大蔵経研究所と締結した協定により、デジタルデータに基づく南禅寺一切経の複製本が南禅寺に順次寄贈されている。

韓国の人々が、国難の最中に取り組んだ大蔵経開版という国家事業を誇り、文化遺産として大切に思う気持ちは、同研究所の関係者の姿から強く伝わる。その思いはわれわれも最大限尊重すべきだ。

しかし、それと比較しても、対馬の仏像盗難をめぐる韓国側の動きは明らかにおかしい。宗教者が盗難被害品の返還拒否運動をリードしているとしたら、極めて残念なことだ。

一方、日本国内でも竹島問題など日韓の政治的摩擦・対立と結び付けてこれを話題にしようとする動きが見られる。今回の問題をそうした図式の中で特に意味付けることは、事件の解決をいたずらに遅れさせ、日韓の宗教者だけでなく両国民の間の溝を広げる結果を生むだけだ。日本側も冷静な判断に基づき、慎重で適切な対応をすることが必要であろう。

釈尊の教えに国境はなく、民族の垣根もないはずだ。その仏教が、国家間の争いや誤解、偏見をかき立てる原因をつくるようなことがあってはならない。韓国側関係者の良識に期待したい。