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新教皇が中南米から選ばれたことの意義

2013年3月16日付 中外日報(社説)

保守派の権化のようなカトリック教会は、時に思い切った変身ぶりを見せる。第266代ローマ教皇を決めるコンクラーベ(選出会議)は、初めて中南米の教会の出身者を選出した。

1492年、アメリカの一角に到達したコロンブスの一行が驚いたのは、新大陸の住民がキリスト教の神を知らないことだった。旧約聖書創世記には、箱舟から降りたノアの子孫が、世界各地へ移住したと記されている。ノアの子孫でない人類がいるとは、まさに想定外のことだった。

コロンブス航海に先立つ1453年には、東ローマ帝国が滅亡していた。コロンブス後の1517年には、神聖ローマ帝国の本拠というべきドイツで、ルターの宗教改革が起こる。危機感を抱いたカトリック教会は、新大陸を宣教のターゲットと定めた。

スペインやポルトガルの植民政策と並行して宣教師を送り込んだカトリックの"経営戦略"は成功し、信徒の数は急増した。インカ文明やマヤ文明を破壊したと批判されつつも、カトリック信仰は中南米に根を下ろした。500年後のコンクラーベに、その成果が表れた。

2月末に退位したベネディクト16世の後任に選ばれたのは、アルゼンチンのブエノスアイレス大司教、ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿である。新教皇は、これまで誰も名乗ったことのないアッシジの聖者にちなむフランシスコ1世として聖座に就いた。

先進諸国のカトリック教会が沈滞している中で、中南米の教会は活気に満ちているという。日本の一部に宣教師を送り込んでいる、新興の宣教団体「新求道共同体」=略称「ネオ」または「道」=のメンバーの多くは、中南米の出身者であるという。

信仰の喜びを全身の動きで表現する典礼方式は、若者には歓迎されるが、伝統を重んじる年長の信徒は違和感を抱く向きが多い。その事情は、日本も例外ではない。日本の16教区の司教団は「ネオ」式典礼のミサを行うことを禁止しているが、日本の教勢は先細り傾向にある。バチカンの一部には、日本の司教団の姿勢を消極的と批判する気配もあるという。

ノアの子孫でなかった中南米の教会の代表が、教皇として"聖書の民"のトップに立つことになった。内部にさまざまな問題点を抱えるバチカンに、フランシスコ1世がどのような新風を吹き込むか。宗教間協力の重要さが強調される現在、日本の宗教界もその動きに無関心ではいられない。