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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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ほとけは憲法改正を望んでいるだろうか

2013年3月5日付 中外日報(社説)

古来、戦争には殺生ばかりか略奪、婦女子への蛮行がつきものだった。勝つためには敵を欺かねばならなかった。在家の仏教徒に科せられた「五戒」のことごとくが戦場では破られた。古今を問わず戦争は仏教にとって最も忌むべき人間の愚行と言うべきである。今さら断るまでもなく、仏教界は戦争の気配には世間以上に鋭敏でなければならない。

こんなことを記すのは、月刊誌『大法輪』3月号に掲載された山崎龍明・武蔵野大教授の法話「憲法九条は『仏』の願い」に触発されてのことである。

近年の危うい国際環境の下、今の世相に漠然と不穏な予兆を感じ取っている人が筆者の周辺にも少なくない。尖閣諸島の領有問題で再燃した中国脅威論、北朝鮮の弾道ミサイル・核実験や海外で日本人が巻き込まれたテロなど不安の火種は多々あるが、それだけではなさそうだ。

複数の報道機関の世論調査によると、昨年末の総選挙の当選者のうち憲法改正に賛成する議員が9割に達し、戦争放棄を定めた憲法9条の改変賛成議員が7割に上る。憲法解釈の変更が必要な集団的自衛権の行使に賛成の議員も8割いる。前回選挙に比べ大幅に増えているそうだ。ところが、有権者の側は憲法改正への賛否が相半ばしており、憲法9条改変は反対が過半数を占める。集団的自衛権の行使も反対の方が多い。安全保障に関しては、政治家と国民の意識に大きな隔たりが存在する。

安倍政権は日米同盟強化のため集団的自衛権容認への地ならしを急ぎ、自衛隊の「国防軍」化のため憲法9条をターゲットに改憲への取り組みに熱心だ。だが、軍事力頼みは当然、近隣諸国との対立を深める。このままでは武力衝突に発展しかねないという懸念を多くの国民が抱いているのではないだろうか。

山崎教授は、法話の中で「大戦後67年、誰も殺さなかった日本人。殺されなかった日本人。そこには九条の精神がかろうじて守られていたから。守ろうとする人がいたからです」「どんなことがあっても国民、若い人を戦場に送ってはなりません。それが仏法者のギリギリのモラルと考えます」などと主張している。

筆者は「戦前責任」という言葉を思い出した。先の大戦を知らない世代に戦争責任はない。だが、今を生きる人間は全て、将来もし戦争の惨禍が再来することがあるなら、その責任を免れないという含意である。もとより仏教界の責任はより重いことになろう。