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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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弱い絆こそ実は強い 人と人の関係の逆説

2013年1月12日付 中外日報(社説)

日本郵便によれば元旦に配達された年賀状は前年比1・5%減の18億9900万通で、4年間続けて減少しているという。それでも元旦だけで19億通近く配達されるというのは驚くべき枚数である。

年賀状には儀礼的なものも少なくない。年1回の年賀状だけのやりとりの知人もいると思う。そんな背景もあって、ますます増えてきたのが、裏も表も印刷という年賀状だ。これも出さないよりはマシという見方がある一方、逆によそよそしさが感じられてマイナス効果だという意見もある。いずれにせよ、1年に1度、1枚の紙だけで交流する淡い付き合いでも、それはそれで意味があるはずだ。

われわれはつい、人と人の絆は強い方が良いと思う傾向がある。しかし、社会心理学で近年言われているのは、弱い絆にこそ意外な強さがあるということである。家族や同僚、親しい友人の間のような強い絆の関係だと、人間関係はその中で完結してしまいがちだが、普段あまり付き合いがない人にコンタクトを取ることで、そこから思いがけない交流の展開可能性が生まれるからである。

弱い絆は、実は社会のネットワークを縫い合わせる上で、不可欠な紐帯の役割を果たしている(M・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』、草思社)。だから、年に1回、年賀状だけの付き合いであっても、自分の仕事や生活圏とは異なる人とつながっていることで、そこから人生のひょんな転機が生じることもあり得るのだ。もちろんそれを生かすかどうかは、本人次第であるが。

さらに言うと、そのような弱い絆をたどっていけば、わずか6人を介することによって、世界中の人にコンタクトをつけることができるという。理論上、どんな人でも24人の知り合いがいれば、地球上の60億の人々とコンタクトが取れるからである。これが「スモールワールド」理論である。してみると意外な出会いも、実はそれなりの確率的必然性があるのだ。筆者にも、飛行機でたまたま隣に乗り合わせた人が知人の知人だったという経験がある。

無縁の人間など、実際には誰もいない。無縁なのは、なんらかの理由で自ら縁を断ち切っているからであり、それならば別な所で縁をつなぎ直していけばよい。また、人間関係のしがらみで苦しむ時には、今まで疎遠だった人の存在が意外な解決のヒントを与えてくれるかもしれない。

無縁は有縁に反転し、弱い絆は実は強い。これが人間世界のパラドックスである。