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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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被災地からの発信 生き方見つめ直す

2012年12月20日付 中外日報(社説)

津波の犠牲になった父親の遺体をペットボトルの水で洗っても洗っても、泥が拭いきれなかった。「お父さん、ごめん」。被災地の男性は1年後、その体験をミュージカルの台詞として何とか語ることができ、前を向けた。

宮城県東松島市の主婦前谷ヤイ子さんが、仮設住宅に住む仲間と苦しい心を打ち明け合い、少しでも元気になるために呼び掛けた「ありがとうを言いに行こう♪プロジェクト」。今年3月に東京銀座のホールで演じた支援への感謝を込めたミュージカルには、被災者の男女114人が出演した。

このエピソードのように、東日本大震災の後、絶望の淵から何とか希望を持って生きて行こうとする人々の話を集めた書籍『ラジオ・カフェ・デ・モンク』が手元に届いた。宮城県を中心にした超教派の宗教者が被災者支援をする「心の相談室」が、仙台のFM局で毎週放送している同名番組でのインタビューの記録。

登場するのは、移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」を続ける曹洞宗僧侶をはじめとする多彩な面々。副題に「震災後を生きるヒント」とあるように、被災地に限らずこの国の全ての人に勇気を与えてくれる。

在宅ホスピスに長年関わり、同相談室を代表として立ち上げた後にがんで亡くなった医師は「東北には元々、宗教者とつながっていく文化が根強い」と宗教の力を語り、地元の写真家は支援活動をしながら「それでも写真は美しいものを撮る」と、いのちの根幹に迫る深い芸術の意義をにじませた。

岩手方言の「ケセン語」による聖書翻訳で知られる山浦玄嗣さんは「神さまの思いにァ あらゆるものォ生がす力ァあって」と「ヨハネによる福音書」を紹介。福島の住職で作家の玄侑宗久さんは原発問題で「両極にぶれないで進む力強さ」を強調する。

壊滅的被害を受けた南三陸の神社宮司の「ことごとくガレキとなりし我が庭に凛然として立てるあすなろ」の短歌。九州から組織的支援に入り続ける牧師の「送った援助物資に添えられた『生きていさえすれば、いつかきっと笑える日が来る』というメッセージこそが、地元の人々の最大の支えになりました」との報告。いずれも、掛け声だけの「絆」や「頑張れ」とは違う現場の迫力がある。

「おばあちゃんのゴム長のガッポガッポという足音がする もう夜明けだな 畑さ行くんだな」。そう、気仙沼出身のシンガー・ソングライターも生活の場にある底力を歌い上げるように。