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親善関係の回復には歴史の認識が必要だ

2012年10月27日付 中外日報(社説)

「三国干渉って何ですか?」と聞き返された。対話の相手は、終戦直後に生まれた"団塊の世代"に属するA氏である。有名大学を卒業して大学の教壇に立ち、多数の著書もある人だ。

仏教伝来や入唐僧、入宋僧について話し合ううち、近世・近代のアジア史が話題になった。ところがこの人は、明治28(1895)年の「三国干渉」を知らないという。三国干渉とは、日清戦争に勝利した日本が、清国から台湾と遼東半島を割譲された時、ロシア、ドイツ、フランスの3国から「遼東半島は清国に返還せよ」と要求され、やむを得ずそれに従った史実である。

仏教を中心とした古代史に関しては雄弁だったA氏が、明治以後の話になると、急に口が重くなった。遼東半島と山東半島を混同しているらしく、日清戦争と第1次大戦を取り違えたフシもある。A氏は告白した。「実は私は、歴史には弱いのです」と。

戦後の高校教育では、日本史は必修でなくなり、そのため日本史を履修しないで卒業する生徒が増えた。履修した場合でも、授業の進みが遅れると江戸時代の終わりあたりで学年末を迎える。その結果「後は教科書を読んでおけ」になってしまいがちだ。だから、明治から大正にかけての学習が足りないことになる。

三国干渉を知らないばかりか、A氏は同じ年にソウルで起こった日本人による「閔妃暗殺」事件も知らないと言う。大正4(1915)年に日本政府が中華民国に無理難題を押し付けた「二十一カ条要求」についても同様だろう。A氏が知らないほどだから、一般の日本人多数が、これらを知っているはずはない。

今年に入ってから、領土問題で中国や韓国との間で緊迫した状態が続いている。中国や韓国の指導者層は、明治維新以後の日本の外交について、一定の認識を持っているはずだ。

これに対し日本では、その道では碩学とされているA氏でも、歴史認識が十分とはいえない。現在、新聞社で指導的地位にある記者にも、太平洋戦争以前の事情はよく知らないという人が多かった。政治や行政に関わる人々の一部も同様ではないか。筆者の思い過ごしかもしれないが。

民間外交の積み重ねで、親善関係を回復すべきだという。正論である。しかしそれには、正しい歴史認識の基盤を築くことが必要であろう。A氏には誠に失礼だが「私は歴史に弱いので」で済まされることではない。