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原発に触れたがらぬ女性たちの心情とは

2012年6月28日付 中外日報(社説)

この女性たちの心情に、政府や電力業界はどう応えるべきだろうか、と考えさせられた。

わたくしごとであるが、広島での被爆体験を話してほしいと頼まれた。先方は東京の中央線沿線に住む女性のグループである。筆者は「では、最近の原発問題を絡めてお話ししましょうか」と逆提案した。ところが「原発問題は結構です。広島の体験だけをお聞きしたい」と言う。どうやらこの人々は、原発論議にはうんざりしているらしいのだ。

この時はまだ福井県の大飯原発の再稼働は決まっていなかった。だが再稼働の是非をめぐる論議の中で、政府や原発推進派の本音が分かってきた、と言う。重要な会議の議事録が作成されていなかったり、再稼働推進派だけで秘密会を開いたりの事実が、相次いで明るみに出た。安全確認よりも経済優先で既成事実が積み重ねられようとしている、と。

広島・長崎の被爆者にとって、中央線沿線は忘れられない土地である。被爆の記憶生々しい昭和29(1954)年3月、静岡のマグロ漁船・第五福竜丸が、ビキニ島近海で米国の水爆実験の死の灰を浴びせられた。大量の汚染マグロが廃棄されたばかりか、9月には無線長の久保山愛吉さんが急性放射能症で死去する。「これでは地球が破滅する」と立ち上がったのが、中央線沿線に住む"杉並の主婦"たちだった。

核廃絶を求める署名活動は全国に広がり、翌30年8月には広島で、超党派の「第1回原水爆禁止世界大会」を開くまでに盛り上がった。被爆者が発言すべきことを"杉並の主婦"たちが代弁してくれたのだ。中央線沿線は、市民運動発祥の"聖地"ともいうべき場所である。

このたび集まったのは、人数こそ少ないが、かつての"杉並の主婦"たちの娘や孫娘の世代だ。平和を願う心を風化させてはならないとの思いを込めて、筆者の貧しい話を聞いてくれた。

だがこの人々が、これほどの熱意を持ちながら、政府や業界の原発政策にシラけきっているとすれば、大変なことではないか。与党も野党も反省の心と共に善後策を協議すべきなのに、党利党略や企業の論理が先行し、国民の福祉は片隅へ押しやられているのではないだろうか。

宗教界では有力な教団や連合体が、相次いで原発再稼働への反対を表明している。声明発表にとどまらず、市民への直接の呼び掛けも期待したい。宗教者の立場を訴えるべき時だ。