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隣国との和解努力に水差してはいけない

2012年5月10日付 中外日報(社説)

「暴力と怨恨は、どちらか一方が断たない限り終わりはしない。暴力の環を断ちうる主体は被害者の側である。(略)韓国は日本を赦すべきである。怒りは、決して謝罪を導くことはない」

仏典の教えを連想するが、韓国・世宗大学日本文学科の朴裕河教授が韓国民向けに著した『和解のために―教科書・慰安婦・靖国・独島』の一節だ。「赦す」対象は戦前の日本の植民地支配である。

ただ、加害者側には厳しい自省を求めている。同書の意図は「韓日間の和解は遼遠である。被害者の示すべき度量と、加害者の身につけるべき慎みが出会うとき、初めて和解は可能になる」という一文に集約されるようだ。

6年前に刊行された同書の日本語版(平凡社刊)を読み返す気になったのは、石原慎太郎・東京都知事の尖閣諸島購入表明による。

同書が出された前年、島根県が竹島(韓国名独島)の日本領有権確立を訴える「竹島の日」条例を制定し、それを契機に韓国で反日抗議活動が先鋭化、日本に過去への謝罪を求める声が噴出した。同様に歴史問題が尾を引く中国では日本の国連安保理の常任理事国入り問題などで激しい反日デモが発生した。日中摩擦は尖閣諸島の領有をめぐり危うい状況にある。

領土問題の争いは愛国心を刺激し、究極的には戦争に至るほど厄介なものだ。特に竹島の帰属は、韓国には「過去の清算」という意味合いも課せられていると聞く。そんな韓国内の空気も十分に認識した上で朴教授は、平和を壊してまで守る価値のある領土はないという視点に立ち「現在の独島がもたらしうる最上の価値は韓日間の平和」と断言。国民の冷静な行動で相互の信頼関係を築きつつ解決への糸口を探り、和解へと歩みだすよう提言している。

石原知事の尖閣購入発言はマスコミでも賛否の論争が展開されており、重複を避けるが、同書の勇気のいる主張と比較した場合、思想性の違いが際立ってくる。

尖閣問題は竹島とは異なり、国力の拡大を頼む中国側の無理押しという印象が強い。資源や軍事戦略も絡んで複雑だが、だからといって知事の俗にいう「マッチョ」な言動が解決を促すとは思えない。歴史への「慎み」を疑わせる普段からの発言が気に掛かる。

日中間には難題が山積し、国交正常化40周年を迎えてなお和解は遼遠だ。だが、幸いなことに民間レベルでは多様な交流が重ねられ、仏教界の地道な対話も豊富にある。それを顧みず、争いを助長するような愚は厳に慎みたい。