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命の水源へ気配りに欠ける原発再稼働論

2012年4月7日付 中外日報(社説)

滋賀県の琵琶湖は周辺に分布する活断層の活動で生じた巨大な「水たまり」だそうである。普通なら周囲の河川から流入する土砂で埋められていくはずだが、埋めきらないうちに次の断層活動で沈降するので存続し続けてきた。つまり太古から絶え間なく大地震に見舞われてきた湖というわけだ。地震考古学という分野を開いた寒川旭氏著『日本人はどんな大地震を経験してきたのか』(平凡社新書)で教えられた。

琵琶湖は約100もの湖底遺跡があることでも有名だが、多くは過去の地震で水没した。うち三つの遺跡は1662年の寛文地震など中・近世の3回の地震で水没したことが先日、学術調査で裏付けられた。寛文地震は隣の福井県側の活断層と連動したという説もあり、若狭湾の一部で数メートル隆起した記録が残されている。

同書に戻ると琵琶湖の形成に最も寄与したのは琵琶湖西岸断層帯で、その活動で隆起した西側が千メートル級の比良山地、沈降した東側が琵琶湖になったという。万葉のロマンを秘めた今の穏やかなたたずまいとは似つかわしくない来歴だが、そんな地勢的条件が近畿圏1450万人に命の水を提供する「水がめ」を生んだ。大自然の営みに感謝するほかない。

ところで滋賀県境から30キロ圏内の福井県側では13基の原発がひしめき、最も近い原発は13キロしか離れていない。それら原発群のうち定期検査で停止中の大飯原発3、4号機について、国の再稼働への手続きが急ピッチという。「大飯を弾みに全国の原発再稼働へ」という電力業界の思惑に沿う形である。「時期尚早」と反対する滋賀県の嘉田由紀子知事ら周辺府県の動向を封じるため、再稼働に必要な「地元の同意」の範囲を福井県と立地自治体のおおい町に絞る動きさえ見せ、せめぎ合っていると伝えられている。

嘉田知事は「琵琶湖は1450万人の命の水源」と主張しているようだが、なぜかその意味合いがあまり報じられていないのが気にかかる。もし放射能で汚染されたら、その衝撃は計り知れず、近畿圏どころか日本社会が危うくなると言っても過言ではなかろう。

「戦前責任」という言葉を思い出す。先の大戦に至る苦い教訓を忘れると、次の戦争への道を歩み始める。今度は「だまされた」では済まず、誰も責任を免れることはできない。原発も同じである。諸々の事情で再稼働が不可欠というのなら、なおさら拙速は厳に慎まねばなるまい。自然の恵みは一転し、破滅を迎えることになる。