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豪華客船事故に思う「四弘誓願」のこころ

2012年2月7日付 中外日報(社説)

仏教で「わたす」とは、言うまでもなく仏や僧が、衆生を悟りの彼岸へ行き着かせることを意味し「度」の字を当てる。四弘誓願の第1行「衆生無辺誓願度」の最後の字が「わたす」である。

昔は海や湖、大きな川を渡るのに、絶えず危険が伴った。船客を無事に対岸に到達させるのが、船頭の喜びであり、誇りであった。宗教者が民衆を彼岸へ導く使命感を、船頭の喜びになぞらえたのが「度」であろう。

「姿の美しい船は、性能が優れている」。戦後間もない昭和20年代にこう説いたのは、広島大学工学部船舶工学科(造船科)の教授陣だった。洋上で嵐に遭っても高速で乗り切れるよう設計した船体には無駄な部分がなく、おのずから洗練されたスタイルになる、と教えられた。

2006(平成18)年の夏、ノルウェーのフィヨルド地方を訪れた。峡谷のように深く切れ込んだ入り海が続いている。その湾の一つに、船体が黒く、客室部分は白い巨船が入ってきた。当時はまだ現役で活躍していた、英国のクイーン・エリザベス2世号である。以前に神戸港で見た洗練された船体にノルウェーで再会するとは、思いがけないことだった。

翌日、湾内に2隻の巨船が仲間入りした。7万327トンのエリザベスより一回り大きい。「2隻とも10万トンクラスです。今の豪華客船は太平洋や大西洋を乗り切る必要はなく、静かな海をゆっくりクルーズすればよい。だからホテルにエンジンを付けたような構造になります」と解説する人があった。遠距離の移動は飛行機に任せ、船は一定海域の航海を楽しむ手段に、という。

先ごろ起こったイタリアのクルーズ観光船コスタ・コンコルディア号転覆事故の後で、船舶工学を専攻した広島大学の学友が語っていた。「12万トン近い巨船なのに、喫水線以下が極めて浅い。船長の操船ミスが追及されるのは当然だが、船体構造の在り方についても見直すべきだ」と。

クルーズ船の年間利用者数は、1970年代の50万人から、最近は2千万人に増大したとの統計もある。22万トン級をトップに、10万トンを超える豪華客船は数え切れない。海外クルーズは日本旅行業界でも目玉商品になっている。ガイドブックの写真を見ると、よくこれで転覆しないものだと感じる船もある。

豪華客船の建造を発注する会社にも、それを造る造船所にも、運航する乗組員にも「誓願度」のこころを知らしめたい。