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縁起思想の視点からTPP参加を憂える

2011年11月22日付 中外日報(社説)

「縁起」の思想的深さに届くはずもないが、簡潔に「相互依存」という理解が許されるなら、その今日的意義は限りなく重い。

例えば世界の人口は10月末で70億人になった。国連人口基金の『世界人口白書』は「私たちは70億の可能性を持つ70億の人間」で、一人一人が共に世界を変革しようと訴える。地球上では4人に1人が1日100円以下で生活し、年間1千万人近い5歳までの死の半分強は栄養不良に起因する。そんな不平等への異議であり、途上国の人口爆発で食糧や環境問題を恐れる身勝手な先進国への警鐘とも読める。命の多様性が尊重されない社会は持続できるのか、という真剣な問い掛けなのだ。縁起思想とも通じ合う。

もとより人は支え合って生きるものだが、現実の世はむしろ社会の繁栄を弱者の犠牲の上に築いてきたとさえ言える。途上国との南北格差は象徴的な事例だろう。

「大の虫を生かす」ということわざは、俗に強者の自己保身の方便に使われることが多い。唐突だが国論を二分するTPP(環太平洋経済連携協定)参加論争で、この言葉を思い出した。市場開放の利益のため国内の「小の虫」を犠牲にするという文脈からだ。

TPPは米国主導の複雑な交渉事だ。コメの輸入自由化は枝葉にすぎず、対象は多岐に及ぶ。一例だが、交渉参加国では、米国医薬品業界が医薬品特許期間の延長を迫り、安価なジェネリック薬の市場流通の阻止(=高薬価の維持)を図るのでは、と懸念されている。高額な民間保険主体の米国の医療サービス参入で日本の国民皆保険が崩れる、国際的な資金移動の規制緩和で金融資本にかく乱される、等々あまり報道されなかった分野でも心配の種が尽きない。米国は自由競争至上で貧富の格差も自己責任に帰する国柄である。

筆者は農業を「小の虫」にして交渉参加を唱和する日本の主流メディアが農業の競争力強化を主張するのに違和感を持つ。記者たちは疲弊した農村の実情を分かってはいまい。多数国が参加するのはいい。だが、日本の特殊な事情に目をそらすことは許されぬ。米軍基地問題で沖縄を犠牲にして恥じず、普天間基地移設の行き詰まりを大きな負債として米国への償いに腐心する政府の主体性の無さである。玄侑宗久氏は地元紙『福島民報』で「原発と全く同じ問題が問われている」と断じ、交渉参加を対米従属として強く反対する。

諸国の連携は大事だが、生者全ての共存があってこそ。縁起の視点からの思考が求められる。