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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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地に足をつけて生き方を考え直す

2011年10月29日付 中外日報(社説)

釜に入れて使う炊飯用備長炭や炭せっけん、竹炭あぶら取り紙、靴脱臭炭など、アンテナショップに多彩な炭製品が並ぶ。木炭にこんなに用途があり、菊炭はこんなに美しいのかと驚かされる。

京都で開かれた炭と山林業の全国大会は、「文明論」などという大上段のテーマを掲げてはいないにもかかわらず、震災・原発事故後の社会の閉塞状況に風穴を開け、生き方を考え直すエネルギーに満ち満ちていた。

地元の「林業女子会」は、女子学生やOGがつなぎ服に地下足袋で里山に入り、植林からチェーンソーを操っての枝打ち、炭焼きまでをこなし、上記のアンテナ店を運営するなど薪炭を使う生活スタイルの普及にも力を入れる。「トレンドを作って経済を進めるのは女子」と明るく元気で、地域に密着して事業の実績を挙げている。

北陸の大学で環境問題を研究しつつ山村に定着し炭焼き仕事を続ける若者は、材料のクヌギを植えるため、耕作放棄地で土づくりから手塩にかける。伐採できるまでに育つのに8年。ゆっくりした時間を生き、「季節ごとにいのちの成長、変化を感じる。親から受け継いだこの場所で生き抜く」と決意を述べた。

彼の住む、本州の市で最も人口の少ない石川・珠洲は、住民の強い反対で原発建設計画が凍結されたことで有名だ。

パネリストで京都・東山で森の自然を学ぶ取り組みをしている法然院の梶田真章住職は、外国製の水ペットボトルが演壇に置かれているのをやんわり指摘した。

哲学者の鷲田清一氏は、先に開いた震災をめぐる講演会で「断水したらミネラルウオーターを買いあさり、近くに川が流れているのに水の使い方を知らず、ヘリコプターでペットボトルが運ばれてくるのを待つしかない」と、文明が進むほど、便利さの中で人間が生きるためのさまざまな能力を失ってきた問題点を指摘した。

「生き方の転換」などと言わなくても、住職は持参の水筒から自前のお茶をおいしそうに飲み、会場には火鉢や木炭アイロンなどこれから十分使えるものも展示されていた。里山荒廃の最大の原因は開発よりも人々が利用しなくなったことだとの研究も報告された。

単に「昔ながらの素朴な暮らし」ではない実現可能な生活文化は、目の前にある。例えば紀州備長炭を使うこと。それは、先の紀伊水害の被災地を支援することにもつながり、そこには経典の言葉こそ出てこないが、「縁起」つまり関係性も脈々と生きている。