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魂は精神を司る精気 井真成墓誌の魂魄観

2011年10月25日付 中外日報(社説)

岩波新書の1冊として、このほど興膳宏氏の『仏教漢語50話』が刊行された。(1)音訳語、(2)意訳語、(3)訳語ではくくりきれない語彙、これらの3部で構成されている。

高度な内容ながら、著者の造詣が深い落語の話などが随所に盛り込まれており、楽しく読むことができる。

サンスクリット語の「カルパ」が漢字で「劫」と音写されたのなどが音訳語。サンスクリット語の「ナラカ」が「地獄」と訳されたのなどが意訳語。

その場合、音訳語として「奈落」も作られたのだが、中国にもともと存在し、それだけに中国人になじみの深い「地獄」の語がむしろ広く用いられたのであった。そして第3部には、「愛」や「心」などの語が集められている。

中でもわが意を得たのは、第3部「魂魄」の項であった。

「魂魄」は和語の「たましい」に置き換えられるものの、「魂」は精神をつかさどる陽の精気であり、「魄」は肉体をつかさどる陰の精気を意味するという違いのあること、そして『楚辞』の「招魂」篇に、死んで帰らぬ主人公に「魂よ帰り来たれ」と呼び掛ける句がリフレインとして繰り返されていることを指摘した上、2004年に中国の西安市で発見された8世紀唐の時代の日本人留学生井真成の墓誌が取り上げられている。

その墓誌の銘文が、「形既埋於異土、魂庶帰於故郷」と結ばれているのについて、興膳氏は次のように言う。

――これは、「形は既に異土に埋もるるも、魂よ庶わくは故郷に帰らんことを」と読める。「君の肉体は異国の地に埋もれたが、魂はどうか懐かしい日本の故郷に帰ってくれ」と呼び掛けているのだ。

「井真成墓誌」については、これまでにさまざまの解釈が出されているが、興膳氏の文章を読んでわが意を得たりとの思いを抱いたのは、筆者も平成16年11月20日の本欄「『井真成墓誌銘』が伝えるもの(下)」と題した一文において、「魂庶帰於故郷」は『楚辞』招魂篇の句と照応するであろうということを述べて、興膳氏と同じ読みと解釈を示しておいたからである。

つけ加えるならば、白居易が9歳で亡くなった弟の幼美のために執筆した墓誌銘が、「魂兮魂兮随骨来(魂よ魂よ骨に随いて来たれ)」と結ばれているのも、この読みを補強してくれるかもしれない。