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被災者への配慮がなぜ学者にできぬ

2011年9月3日付 中外日報(社説)

重病の患者を見舞うときは「治ったら花見に行こうな」「紅葉の色づくころには退院できるよ」などと言って励ます。それが社会人の常識のはずだ。ところが一部の学者には、そのような配慮が欠けているような気がする。

8月27日の本欄では、衆議院の厚生労働委員会に参考人として出席した内科医の東大教授が、注釈なしに「私の推定では福島の原発から広島の原爆の20倍もの放射性セシウムが漏出している」と述べたことを指摘し、地元の住民感情に配慮した"対機説法"ができないものかと提言した。

ところがまさにその日、新聞各紙に"対機説法"第1号が登場した。経済産業省原子力安全・保安院が発表した数値である。それによると放射性セシウム137は、広島原爆の約168倍の量が福島原発から放出されたという。数字だけ見れば東大教授発言よりさらに大きくなるが、ちゃんと注釈が付けられていた。

最も詳しく引用した朝日新聞によると保安院の注釈は「原爆は熱線、爆風、中性子線による影響があり、原発事故とは性質が大きく違う。影響を放出量で単純に比較するのは合理的でない」と説明する。打ち上げ花火一発と、家々の庭先で幼児が手にする線香花火の差とでもいうべきか。

日本経済新聞によると、衆院委での東大教授は「福島の原発事故で放射性セシウムを被ばくした人では、ぼうこうがんのリスクが増える恐れがある」とも述べたが、京大のある名誉教授は「引用した科学論文に対しては科学者の間で多くの疑問点が提示されており、慎重な評価がいる。あたかも科学的に確定した事実のように扱うのは、不要な不安をあおるだけだ」とクギを刺したという。

東大教授の「広島の20倍」発言は歯切れがよい上に、政治家の怠慢を責める言葉も含まれていたことから注目を集めた。さらには文科系の学者がテレビやラジオの番組でそのまま引用したから反響を呼び、福島県や近県の住民は不安をかき立てられた。

学者の中には「放射能を長く浴び続けると遺伝子が破壊される」と指摘する人がいる。しかしなぜか「遺伝子には自ら修復する力があるという説が台頭している」と付言する人は少ない。

いたずらに不安感をあおるのが科学者の務めではないだろう。しかし現実には、保安院の役人にもできる"対機説法"ができていない。科学、医学を学んだ僧職は少なくないが、その人々にぜひ発言してほしいところだ。