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山繭の糸を紡いだ"真宗王国"の伝統

2011年7月26日付 中外日報(社説)

真宗王国の広島県を、2回にわたって訪れた。最初の訪問地の福山市で、A住職から話を聞いた。「この地方は木綿織りの備後絣が盛んだった時代がありますが、絹織物産業は発達しませんでした。仏教徒として、蚕の命を奪うに偲びなかったのです」

続いて西部の広島市では、安佐北区のB住職から、次のように教えられた。「この地域ではヤママユ(山繭)産業が発達しました。山繭とは、蚕が成虫になった蛾が飛び立った後の破れた繭です。蚕を殺さなくても絹糸を採ることができました」

山繭は広島県のこの地域と、長野県の一部で生産された。現在は合繊に取って代わられたが、山繭をかたどった上品な和菓子が今も売られている。

同じ広島の安芸門徒でも、海辺の民は魚の命を頂かないと生活できなかった。しかし親鸞聖人の御正忌である1月16日の前日のお逮夜には出漁しなかった。魚市場も町の魚屋さんも休みで、住民全体が精進をした。以前に本欄で紹介したことである。

そのお逮夜の伝統が、最近は廃れていると聞いた。全国チェーンのスーパーが進出した影響も考えられるが、呉市のC住職は、こう解説する。「官庁筋から、一部の地域だけが勝手に休むのは好ましくないとの指導があったようですよ」。広島の原爆忌には、全市の金融機関が休業していた。しかしこれも官庁筋から、全国の経済に響くと指摘され、営業することになったとか。行政の指示が、宗教的慣習に優越するようだ。

その広島市へ、滋賀県から転勤してきた真宗門徒がいた。自宅に近い寺院のD住職に、日曜日に月参りしてほしい、と頼んだ。指定の日に来訪したD住職は、読経が終わると挨拶もそこそこに、次の門徒宅へ向かった。「D住職は10分余りで帰られました」

広島市の場合、1カ寺当たりの門徒数が200を超す寺が多い。門徒のほとんどが、土曜か日曜の月参りを希望するから、1日当たり30軒前後を回らねばならない。市域が広がり移動距離が延びているため、10分そこそこでの辞去もやむを得ないという。

そこへ今回の震災である。節電のため、広島の自動車工場と関連会社は、木金を休み土日に操業することになった。月参り依頼も木曜か金曜の希望が増え、土日集中が緩和された。「御院さんと懇談の機会が増える」と喜ぶ門徒が多いとか。世はさまざまなのだ。浄土真宗に限らず、寺と檀家の法縁を大切にしたい。