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カンニング報道の行き過ぎに反省を

2011年7月16日付 中外日報(社説)

京都大学などの入試問題が試験中ネット上に投稿された事件で、偽計業務妨害容疑で逮捕された19歳の少年に先日「処分は必要ない」との司法判断が出された。少年の将来を案じたようだが、今年2月末の事件発覚後のマスメディアの大騒ぎと事件の結末との落差に筆者は戸惑う。メディア側の丁寧な自己検証を望みたい。

「スタンピード」という言葉がある。何かに驚いた動物の集団暴走のことだが、マスコミ界では社会的に注目される事件で記者が一斉に取材対象に突進する現象をいう。今回のカンニング報道がその一例だ。

超一流校の試験問題がネット上に漏れた驚きで報道が過熱した。だが、真相は母子家庭の少年の単純な単独犯だった。動機も切なく「(学費の安い国立大に合格し)母親を安心させたかった」のだ。もとより入試の不正は許されないし、ネットを悪用した愚かさも見過ごせない。ただ、報道のあり方は別の視点で考えねばなるまい。

「スタンピード」は、よく使われる「集団的過熱取材」と同義で権力犯罪など単独では困難な取材に有効だが、弱い立場の個人が対象の場合は慎重さが求められる。最近では平成16年、鳥インフルエンザの感染を隠したとして摘発された兵庫県の養鶏業者夫婦がメディアの集団バッシングを受け、自殺した事件が記憶に新しい。

ネット社会の盲点を突いた今回の漏えい事件は当初、組織的な関与が想定された。入試制度の根幹を揺るがすもので、発覚時点でメディアが注目したのは当然だ。だが、事件の構図が見えてからも過熱ぶりは変わらなかった。報道陣は少年の実家周辺や母校、予備校にも取材に押し掛け「予備校生逮捕へ」「おとなしい子が」「教育関係者に衝撃」などの大見出しが連日、新聞紙上に躍った。

実は集団取材に伴う人権侵害への批判の高まりで日本新聞協会などが一定のルールを設けている。特に少年事件は取材・報道への十分な気配りが必要とされる。今度のケースで言うと、事件の構図が当初の想定と違ってきた段階で取材方法を含めて冷静に再検討すべきだった。その慎みが今の報道には求められているように思う。

とはいえ状況は楽観できるものではない。昨今のメディア状況は人々の心にゆとりが失われ、非寛容になりがちな世相と無関係ではなさそうだからだ。カンニング報道の過熱も、社会に慈悲心が薄らいでいる表れではないかと危惧する。そんな観点からあえてメディアに注文を付けてみた。