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苦縁―東日本大震災 寄り添う宗教者たち
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発表者側の姿勢が混乱を防ぐ場合も

2011年5月7日付 中外日報(社説)

京都市で出版社を経営する黒川美富子さんは、難聴者の福祉に関する書籍を手掛けることで知られているが、自らも一時、失聴体験をしたことがある。

黒川さんが出版した本の中に、こんな例があった。講演の場で、話し始めは大声でゆっくり話す講師が、息継ぎ直前になると声量が落ち、しかも早口になることがある。聴衆にはクチャクチャとしか聞こえない。

「大声で、もう一度」とお願いすると、先ほど大声だったところでは声を張り上げるが、小声で早口だった部分は、やはりクチャクチャだ。しかも論旨の要点は小声の部分にあることが多い。

昨年12月に喜寿を迎えられた天皇陛下は、記者会見の席で、聴力がやや低下したと告白された。「テレビのニュースでは、アナウンサーの話す内容が分かる。だが他の人の話は、字幕に頼ることもある。アナウンサーが聞き取りやすい発言に努めているかがよく分かった」とも言われた。そのためか、最近のテレビに字幕が増えたとの声も聞く。

先日の日本経済新聞のコラムでは、脚本家の内舘牧子さんが天皇のご発言に関連して「日本人全体の話し方が不気味なまでに醜悪になっている」と批判、特に一部の女性の話し方は、声高いトーンや舌足らず口調のため、健常な耳の持ち主にも聞き取れない、と指摘していた。

アナウンサーでも、ラジオの場合は、時に極度の早口言葉になることがある。分刻み、秒刻みの進行が求められるためだろうが、一瞬、放送の内容を聞き逃したら、それっきりである。

本稿では、最初に大声、語尾がクチャクチャの講演は困ると指摘したが、最初から最後までクチャクチャは、もっと困る。東日本大震災発生直後の、福島第1原発事故についての東京電力の記者会見は、会社側が終始小声のため、聞き取りにくかった。たまたま筆者の見たテレビニュースがそうだったのかもしれないが……。

3カ月前のことだが、東日本大震災に先行して発生したニュージーランドの地震では、救出活動の進み具合を説明する場で、制服姿の男性がキビキビと手話通訳する様子が映し出された。あの手話通訳者こそ、震災克服に取り組むニュージーランドの姿勢を端的に象徴していた。

非常の場合は、発表者の口ぶりや態度、姿勢が、動揺を鎮め、力づける効果を発揮する。法話の名手といわれる人々の話し方が、参考になるのではないか。