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放射能問題での良識的論議望む

2011年3月31日付 中外日報(社説)

東日本大震災をめぐる報道で、常識の立場からさまざまな疑問がわいてくる。まず、福島第一原発は損傷したが、宮城県の女川(おながわ)原発はどうなったのか。多分、無事なのだろうと思っていたら、やっと見つけた報道では、10メートルの津波を予想して建設していたから、無論運転は停止したけれど、危険はなく、被害は小さかったという。無事な原発があったということは国の内外に発信すべき重要な事項であるのに、なぜかマスコミは、ほとんど無視している。

各地の放射能の量については「直ちに害のある量ではない」という説明を嫌というほど聞かされた。これは、一年間毎日摂取したら害があるかもしれない量というようなことで、全く具体性を欠いている。

被害者の立場を考えると、例として挙げるのはためらわれるが、あえて数字で説明すると福島第一原発で被ばくした作業員は、上半身には180ミリシーベルト、足には2-6シーベルトのベータ線被ばくがあったという。足の数字は緊急作業時の限界の2-6倍ということになる。ベータ線だったから内部まで届かず、上半身は治療の必要はない。足にやけどの症状が出ないか心配されたが、出ないので今月二十八日に退院の運びとなった。

ちなみに、水には一立方センチ当たり390万ベクレルの放射能があったという。1リットルなら39億ベクレルである。福島県や関東地方北東部の浄水場で1リットル当たり100ベクレルを超える放射性ヨウ素が計測されたというので、各自治体から乳児には水道水を飲ませるなという指示が出た。各地ではあっという間に店頭からペットボトルが消えてしまった。100というきりのよい数字が目安になり、100を超えたら飲むな、それ以下ならよいという感じである。そのため、子を持つママたちに気苦労させる結果となった。

さすがに関連学会は、ペットボトルの水がないなら、水道水を飲ませても差し支えないとの声明を出した。乳児に水を飲ませないでおく方が、よほど危険だからである。

福島第一原発から20キロ圏内では避難、20~30キロ圏内は、屋内退避だったのがこのたび、自主避難するようにという指示になった。新聞によると、二十八日現在のこれら圏内の大気中の放射線量は原発から30キロの福島県浪江町では一時間45マイクロシーベルトだが、この強さが持続し、昼夜屋外に居続けた場合、被ばく量は半年ほどで上記の作業員の上半身と同じレベル、180ミリシーベルトに達するという。がんの発生率が1%ほど増える量だそうだ。

安全な数字は一時間10マイクロシーベルトだというから、30キロ圏内は自主避難せよというのは一応もっともだが、他方でこういうことがある。

交通事故では東京だけでも必ず一日に何人かの死者や、それを上回るけが人が出る。ドライバーが、さまざまな保険に入っているのは、車は絶対安全でないことをよく知っているからだ。「車に乗れば、直ちに身体に危険がある」とはいえないが、一年間乗り回せば事故の「可能性は皆無といえない」だろう。

では、なぜ政府は「万一の危険を避けるために車の使用を禁止する」と指示しないのか、と言いたくなる。そんな指示は出せないのなら、一方で、なぜわずかな放射能しかない水を飲むな、ホウレンソウを食べるなと言うのだろうか。

ホウレンソウなどの野菜は、洗えば放射性物質は流せるという常識がある。しかるべき機関が、実際に洗っておひたしにして、放射能を計測して発表すべきではないか。今は不安をあおり立てる言説の方が通りがよい。危険の限度を見定める方が知性と勇気を必要とする状況である。正確でバランスの取れた良識的言論、指示、各人の行動が望まれる。