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なぜ報道されぬネットでの訴え

2011年2月8日付 中外日報(社説)

貴重な亜熱帯雨林が広がる沖縄本島北部(やんばる地域)の米軍北部訓練場でのヘリパッド(ヘリコプター離着陸帯)建設に、地元住民が坐り込みなど反対運動を続けている。本土メディアは報道しないが、ネット上で情報が伝わり東京の米国大使館などへの市民の抗議行動が始まっている。

急激な政変につながったチュニジアや、エジプトの百万人デモとは対比できないが、日本でもネット空間は社会的少数派(マイノリティー)の自己実現の場として、すでに無視できない存在だ。功罪論はあるものの、ネット社会の可能性を改めて思い知らされる。

ちなみにインターネットを開き「ヘリパッド」で検索すると、数々の項目が並ぶ。多くは建設反対運動を進める地元住民や運動を支援する各地の市民団体の発信。韓国からもエールが届いているという。メディアの記事もあるが、すべて地元紙だ。この問題を報道しない本土の大手全メディアに抗議文を送付した団体は、日米両政府の「横暴と言える重大な事実を報道しないのは市民の知る権利に奉仕する報道機関の使命を自ら放棄するもの」と主張し、賛同を呼び掛けている。訓練場の米軍ヘリの離発着や今年一月に行なった米国大使館への抗議、都心でのデモ行動などのビデオ映像も流れている。

やんばるは希少保護動物「ヤンバルクイナ」が生息する原生林で有名だが、その一角を占める訓練場は面積七千八百ヘクタール余で東京山手線の内側を上回る広さ。米海兵隊の対ゲリラ訓練に使われているという。

平成七年の米海兵隊員による少女暴行事件の翌年、米国は訓練場のほぼ半分を日本に返還、代わりにヘリパッドを建設することが決まり、五年前に国頭郡東村高江地区を取り囲むように六基のヘリパッドをつくる計画が発表された。自然環境や騒音被害を理由に反対する地元住民の現地路上での坐り込み闘争が始まり、国が「通行妨害」として起こした訴訟が係争中だ。昨年末、中断していた工事が突然強行再開され、米軍ヘリが低空飛行で坐り込みのテントを吹き飛ばすなどのトラブルもあり、住民を硬化させている。

ヘリパッド建設を、地元では米海兵隊普天間基地移設先の辺野古との一体運用が狙いとみている。地元紙は昨年末の工事強行について、国は高江地区が百六十戸しかなく反対派は少数と判断、また訓練場の一部返還で沖縄の負担軽減を実績にしたい菅政権の焦りもあるのではと分析し、少数であっても住民の心を過小評価することがないよう求めている。何より辺野古移設計画自体、県民の反対で立ち往生しているのである。

少し前なら、こうした動きが広く伝わることはなかったはずだ。だが、ネット時代に入り不条理を強いられる少数の人々の声を押しつぶせなくなっている。国際社会の秩序が至る所で動揺し、流動化している大きな要因もそこにあるのだろう。例えばエジプトの騒乱で親米ムバラク独裁政権に米国が距離を置いたのも、以前にこの欄で触れられていたウィキリークスによる暴露と無関係ではなさそうだ。米国外交官が「ムバラク政権に人権問題で厳しい態度をとらないよう」米国政府に進言していたという内容だったとされる。

ついでだが、各国の主流メディアがウィキリークスを警戒する論陣を張っているのは「権力側情報筋との依存関係で維持されている報道既得権が危機にさらされる」ことへの憂慮からだとの指摘もある。冒頭の話とどこか通じるものを感じてしまうのは思い過ごしだろうか。

話は飛ぶが、かつて釈迦は何千キロも歩いて一人一人に教えを説いて回ったという。当時とは比べようもなく情報伝達の手段が多様化した現代。釈迦の情熱があれば、広く仏法を行き渡らせる工夫も生まれてくると思うのだが。