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宗教にも静かな変動

2010年12月23日付 中外日報(社説)

今年仏教界で最も大きな関心を集めた一つは、葬儀にかかわる事柄である。葬祭事業に参入した流通大手のイオンは、五月に葬儀の際に僧侶を紹介するサービスを開始した。全国八宗派・約六百ヵ寺の僧侶と連携し、紹介手数料は無料とし、布施の金額目安も明示した。葬儀に関する料金体系をホームページに掲載したことは、大きな波紋をもたらした。七月には、全日本仏教会が意見書を提出した(後にイオンは布施の目安をHP上からは外している)。

その背景には、すでに十年以上も前に、ある宗教社会学者によって指摘されていた檀家制度の変容、いわば地殻変動がある。仏式の葬儀は現在でも九割程度だが、それは強い檀家意識に支えられたものではない。今後葬儀の仏教離れは加速化する可能性がある。

七月に読売新聞社が行なった面接による全国世論調査で、自分の葬式について聞いた項目がある。それによると、千七百九十二人の回答者のうち、「身内と親しい人だけ」が39%、「世間並みに」が31%、「家族だけ」が21%という結果である。

また冠婚葬祭の互助組織「くらしの友」(東京都)が、平成二十一年八月から二十二年七月の一年間に、喪主ら葬儀を行なった四十歳代以上の四百人を対象にした調査では、葬儀費用の総額は平均二百四十二万円余であった。これは十年前の三分の二であるという。檀家意識が薄れ、葬儀を簡素化するという傾向は変わりそうにない。率直に見つめるべき現状である。

情報化も今年さらに進行し、宗教界を新たな段階に導きつつある。全国神社総代会と神社本庁教化部は、神社の参拝方法や祝日の由来などを紹介する携帯電話向けサイト「神社モバイル」を新たに開設した。四月には、仏教伝道協会が米アップル社の携帯端末向けの『仏教聖典』の電子書籍を発売した。国外ではバチカンが三月に、英語・イタリア語・スペイン語・フランス語・ドイツ語・ポルトガル語の六言語で、ツイッターを開始したことが報じられた。

情報の電子化、そして携帯電話を介しての伝達というのも、これから主流になると考えられる。若い世代はパソコンよりも携帯をインターネットに接続する手段とする割合が高くなっているからである。

政治と宗教で話題になったのは、幸福の科学が昨年の衆議院選挙に次いで、七月の参議院選挙に、幸福実現党の候補者を立てたことである。選挙区十九人、比例区五人の候補者は全員落選したが、これは政治と宗教の問題だけにとどまらない話題を提供した。新興の宗教と経済力に注目する雑誌の特集が、相次いで出された。出版界の不況もかかわっていると思われるが、宗教がのぞき見的関心の対象とされる誘い水となったようである。

欧米ではイスラーム・フォビア(イスラム嫌悪)と呼ばれる現象が目立っている。ライシテ(政教分離)を原則とするフランスでは、九月にフランス上院が、公共の場所で顔を覆い隠すことを禁じる法案を二百四十六対一の圧倒的な賛成多数で可決した。

日本ではイスラームへの嫌悪が高まっているとは見受けられない。ただ、イスラーム教徒の墓地不足の背景に、住民の反対運動があることを知ると、警戒心が薄いわけではないといえるかもしれない。他方で、イスラームの理解を深めるための国際フォーラムやシンポジウムのたぐいが、あちこちで開かれてもいる。こうしたことは好ましい。

宗教そのものとは言い難いかもしれないが、今年急速にパワースポットという言葉、あるいは観念が広まったことは注目しなくてはならない。それに関係した神社・仏閣の紹介も、テレビや雑誌で一気に増えた。一時的なブームとみる人もいるが、そこには日本人の「宗教的なるもの」に対する感性や態度が表われていると考えることもできる。決して軽い問題ではない。

これらを含めて、宗教にかかわるこの一年の出来事の中にも、静かな変動が、いろいろな形で表面化していることが分かる。