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二十回を重ねた「紫式部文学賞」

2010年11月9日付 中外日報(社説)

石丸晶子▽江國香織▽石牟礼道子▽岩阪恵子▽吉本ばなな▽田中澄江▽村田喜代子▽齋藤史▽川上弘美▽三枝和子▽富岡多惠子▽河野裕子▽大庭みな子▽俵万智▽津島佑子▽梨木香歩▽馬場あき子▽伊藤比呂美▽桐野夏生▽川上未映子(敬称略)

女性文学者のこのラインアップが何を意味するかが分かる人は、文学通といえるだろう。そう、京都府宇治市が平成三年に創設した「紫式部文学賞」の毎年の受賞者である。

平成元年、当時の竹下登内閣は、全国の自治体に地方交付税の一部として一億円ずつの「ふるさと創生資金」を配分した。何に使ってもよいという。その一億円をどう活用するか、池本正夫・宇治市長(当時)は広く市民からアイデアを募集した。その結果、紫式部文学賞を創設することが決まった。

宇治市は紫式部の『源氏物語』を締めくくる「宇治十帖」の舞台である。宇治川に身を投げた浮舟を救う「横川の僧都」の活動が、柱の一つとなっている。横川の僧都のモデルは恵心僧都源信であるとされる。宇治の社寺を歴訪すると、宇治十帖が架空の物語ではなく、史実ではなかったかと感じることもある。

紫式部文学賞はその土地柄にちなんで「前年に出版された女性による小説、詩歌、評論など文学作品の中で最も優れているもの」に贈ることが決まった。いわば"現代の紫式部"の顕彰だ。哲学者の梅原猛氏を委員長に、五人の委員が選考に当たってきた。

受賞者は第八回の齋藤史さんが八十九歳、第六回の田中澄江さんが八十八歳だったのに対し、第二回の江國香織さん、第五回の吉本ばななさん、第二十回の川上未映子さんらは三十代で受賞している。今回の川上さんは、講談社刊の『ヘヴン』で受賞した。

宇治市は第二十回を記念してこのほど『宇治でつづる 夢のつづき』と題したムックを刊行した。その中には賞をめぐる内緒話として「源氏物語を充分読みこなしていない私が、この賞を頂いてよいのかしら」と悩んだ人もいたことが記されている。梅原氏によると「選考会では毎回、和やかながらもそれぞれの文学論が激しく闘わされてきた」=要旨=そうだ。この賞の存在は、年と共に文壇で重みを増している。

この文学賞と並行して、「紫式部市民文化賞」も創設された。男女を問わず宇治市に住み、働き、学ぶ人々の優れた文筆活動を表彰するものだ。第一回から第二十回の今年まで、応募数は自薦・他薦合わせて千三十八件に達した。自費出版したものが多いが、原稿応募もできる。九十代のシニアから高校生までと、受賞者は各層にわたる。選考委員は七人、委員長は民俗学者の山路興造氏である。今年の受賞は、選考委員特別賞を含めて三件。

平成八年に就任した久保田勇・現市長は、池本氏の"源氏物語のまちづくり"路線を継承・発展させた。その機運の中で同十年には「源氏物語ミュージアム」が開館した。源氏物語を現代語訳し、紫式部文学賞の選考委員も務めた瀬戸内寂聴さん(天台宗僧侶)を名誉館長に迎えたこともあって、入館者は最初の十年間で百万人を超えた。

ふるさと創生資金は、自治体によって、さまざまな使われ方をした。文化ホールを造った、城跡に天守閣を再現した、風力発電に着手した、育英制度を発足させた、など。一億円分の金塊で置き物を作って展示したが盗まれた、というケースもあったらしい。その中にあって宇治市は、土地の伝統に即して創生資金の精神を生かし、息長く事業を続けている例の一つに数えられている。さらなる発展を期待したい。

第二十回の紫式部文学賞と紫式部市民文化賞の贈呈式は十四日午後一時半から宇治市文化センター大ホールで行なわれる。