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たばこ値上げの十月に思うこと

2010年10月9日付 中外日報(社説)

二〇〇三年、つまり平成十五年の十月である。パック旅行に参加した筆者は、カナダのトロントにいた。バスの窓から眺めると、中心街の大きなビルの周囲には十人前後の人々が立っている。順番待ちの行列でもないようだ。現地ガイドが説明した。

「カナダは禁煙の規制が厳しくて、人の集まるビルの中では、たばこが吸えなくなりました。だからあの人々は、外へ出て吸っているのです」

平成十五年といえば、日本では受動喫煙の被害を防ぐための「健康増進法」が施行された年である。しかし罰則規定のない法律であることから、当時の日本ではまだ喫煙を大目に見る空気が根強く、この法律は努力目標と考える向きも多かった。それだけにカナダの街頭風景に接して、強い感銘を受けた。

「健康増進法」施行と同時に、大きなレストランの中には全席禁煙にしたり、禁煙席を設けて分煙制にするなど、早々と取り組んだ所もある。しかし酒場や小規模な喫茶店など、喫煙制限のしにくい店もあった。中には、逆手に取って「全席たばこが吸えます」と掲示した飲食店もあったが、さすがにその掲示はいつしか姿を消した。

今年四月、神奈川県が受動喫煙防止条例を施行するなど、公共の場での禁煙はさらに進む傾向にある。最近になって「キャンパス内完全禁煙」を宣言したマンモス大学に対しては、称賛の声とともに「まだ禁煙していなかったのか」の批判も出たほどだ。

そこへこの十月から、たばこの全銘柄について大幅な値上げが実施された。代表的な品種は、ほとんどが一箱四百円を超え、愛煙家には打撃である。税の増収を目指すというより、値上げによって、たばこ離れを加速させたいとの狙いのように思われる。

この値上げに、愛煙家はどう対処したのか。九月中に各紙が報じた「喫煙者アンケート」によると、値上げを機に、四人に一人が禁煙、五人に二人が節煙すると答えている。今まで通り吸うというのは、三人に一人強である。その一部は、たばこ代を確保するためにコーヒー代を節約するそうだ。近年、喫茶店の数は減少傾向にあるという。卓上の灰皿を撤去しないで、愛煙家の便宜を図ってきた喫茶店に値上げのしわ寄せが及ぶかもしれない。皮肉な現象である。

日本たばこ産業(JT)の今年八月の調査では、成人男性の喫煙率は36.6%、成人女性は12.1%だった。男性の比率は年々低下しているが、女性は微増傾向にあるとか。女性の場合、職場で受けるストレスが強く、たばこに救いを求めるのではないか、との分析もある。

折も折、厚生労働省の研究班が九月末に「受動喫煙の影響で年間、六千八百人が死亡している」との推計値を発表した。これは年間交通事故死者数五千百五十五人(平成二十年)を上回る数字だ。うち三千六百人は職場での受動喫煙とみられている。また四千六百人は女性だという。

宗教界の取り組みはどうか。仏教界では「健康増進法」施行当時、宗派によって温度差がみられたが、本山級の大寺院では、所蔵する文化財保護の観点もあって、境内の全域禁煙化が進んでいる。ただし、参拝者の中の愛煙家に配慮して、参拝者休憩所は喫煙OKという寺もある。しかし一部では、冷暖房のため閉め切った休憩所内に紫煙がこもり、たばこを吸わない参拝者を苦しめている例もあると聞いた。

筆者が一昨年夏、ある大神社に参拝した時、休憩所には灰皿が置かれていた。しかし、喫煙する人はほとんどいなかった。その神社では、清掃に当たる職員が作業着でなく、白衣白袴姿だった。純白の服装が参拝者に、休憩室も神域の一部との印象を与えていると、筆者には感じられた。