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宗教戒律の多様性を認識理解させる教育

2010年7月27日付 中外日報(社説)

宗教情報リサーチセンターが季刊で発行している『ラーク便り』の最新号(第四十六号)に、「公共の場所でのベール着用をめぐる議論」という小特集が組まれている。フランスにおけるブルカ禁止法案を中心としながら、ヨーロッパ諸国におけるムスリム問題の最近の局面に焦点が当てられた特集である。

フランスのサルコジ大統領は、イスラーム女性が頭部をすっぽり隠すブルカを着用することについて、女性の隷属を示しているので、政教分離のフランスでは受け入れられないという主張をしてきている。フランス以外でも、ベルギー、イタリア、デンマークなどで、ブルカ着用をめぐって法的規制が論議されていることが紹介されている。ブルカはアフガニスタンなどターリバン支配地域で典型的に見られることもあり、日本でもどちらかと言えば奇異の目で紹介されることが多い。

ブルカ問題に限らず、ヨーロッパではイスラームにかかわる問題がたびたび議論される。ブルキニ問題もその一つである。これも昨年来、『ラーク便り』に紹介されているが、ムスリムの女性用の水着がヨーロッパで問題視されている事件である。

ブルキニは「ブルカ」と「ビキニ」を合わせた造語で、体の線を隠すようにデザインされている。これならば、欧米のムスリム女性も海水浴などができるとして考案されたのであるが、体を極端に隠すこのブルキニが、ヨーロッパ人の目にはかえって異様に映ったということなのである。

昨年、パリ郊外のムスリムの女性がこのブルキニを着用して地元の公営プールに入ろうとしたところ、入場を拒否されたという事件が実際に起こった。イタリア北部のある町では、ブルキニを着用してプールに入った女性に対して、五百ユーロの罰金を科す規則が設けられることになった。もっともすべてブルキニ禁止の方向に向かっているわけではなく、ノルウェーのオスロではブルキニ着用を許可するような規定を作った。

ヨーロッパはイスラーム移民が増えており、このほかにも政治的、社会的にさまざまな問題が起こっている。それに比べると、日本はムスリムの数はまだ少なく、例えば彼らの戒律が大きな社会問題になるというような事態は生じていない。

しかし、ムスリムの子どもたちに対する給食を配慮せざるを得ないといったことは、すでに各地で生じている。給食で出されたものを食べないということは、かつてはもっぱら児童・生徒たちの好き嫌いの問題として論じられてきた。しかし、ムスリムが豚肉を食べないのは戒律の問題であるから、今までの論理では対処できない。さらに例えばベジタリアンのヒンドゥー教の子どもであれば、肉をすべて食べないということがあり得る。

ベールの問題は、教室でも帽子をかぶったままの学生が珍しくない日本では、議論になる可能性は低いが、仮に街頭で礼拝する姿があちこちで見られるようになったとすると、どういう社会的反応が生まれるであろうか。

豚肉というだけでなく、きちんと戒律にのっとって処理された「ハラル」食品であることにこだわる人が増えてきたら、これに寛容に接することができるであろうか。

日本の宗教は比較的に戒律が少ない。従って戒律によって一定の食べ物を忌避するという発想法自体になじんでいない人も少なくない。戒律が少ないこと自体は、良し悪しで議論すべきではないが、戒律を大事にする宗教もあるのだということは、しっかり認識すべきであろう。

こうした世界の現実を体感させる機会を、初等・中等教育の段階から広げていくことを考えるべき時代になったと考えられるのである。