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世界金融不安に「末法の世」思う

2010年5月13日付 中外日報(社説)

経済危機で世界中の人々が職や家を失い、多くの人が自殺にまで追い込まれた一昨年のいわゆるリーマンショックは、人間の強欲が招いた人災的側面が強かった。昨今のギリシャ発の国際的な金融不安も、市場の投機的行為が混乱に拍車を掛けていると聞く。またぞろ人の底知れぬ欲望が大きな要因になっている。富を貪る者は、心の安らぎを得ることはできない。釈迦の教えから二千五百年がたち、人間社会はその真理からはるかに遠ざかってしまったようだ。

「多くのヘッジファンドがユーロ相場を『今年最大の収益源に』と息巻いている」

この連休直前にロイター(電子版)が、そんな記事を配信していた。ヘッジファンドは世界中の個人、金融機関や年金基金など投資家から巨額の資金を集め市場で運用する。相場の上げ下げにかかわらず利益を追求することから「ヘッジ」を冠するそうだ。「空売り」という投機的な手法を使うため、市場のかく乱要因にもなるという。リーマンショックの原因になったサブプライム・ローンによる米国発の金融・経済危機の際、莫大な利益を上げたヘッジファンドが少なくなかった一因もそこにある。ロイターの記事は、ギリシャに始まったユーロ圏の金融不安をファンドが久々に訪れた絶好のビジネスチャンスと見ているという趣旨だった。

そのからくりは複雑で、筆者の理解を超える。国際関係論の学者の論文によると、ポイントの一つは放漫財政で危機に陥ったギリシャの信用不安が高まると、共通通貨であるユーロの価値が低下することにあるという。それを見越して「空売り」の手法でユーロを例えばドルに換え、ユーロが下がったところで再びドルからユーロに換えると利益が出る。事実、その通りにユーロは急落している。

また、ユーロが不安定になるとポルトガル、スペインやイタリアなど他の信用不安諸国でも国債の利率急騰が見込まれる。世界の株式市場も動揺し、株価は急落する。ファンドは、それらも利益拡大の標的として織り込み済みだという。要するにEUの弱い横腹であるギリシャを狙い撃ちすれば、投機資金には何重にも利益が転がり込む構図になっているということのようだ。それによって経済危機が起こり、再び人々が塗炭の苦しみに遭うことになっても、投機資金は逃げ足が速く、投資家には被害がない。恐らく心に痛みを感ずることもないだろう。

金融の裏表を熟知し、国家を巻き込む巨大な思惑が渦巻いていることをうかがわせる。だが、日本での報道はギリシャの当事国責任や独、仏などEU諸国の対応策に注目し、市場の信頼回復を迫るものがほとんどだ。早期の安定策はもちろん必要だが、市場に潜む暴走の危うさにまで突っ込んだ記事をあまり見掛けないので実態はやぶの中だ。

ヘッジファンドは投資信託などと違い、資金運用者の報酬が極端に高い。米国のヘッジファンドトップ十人の所得の合計額が一兆八千億円と聞いたことがあった。ならすと一人千八百億円だが、資金を預けた投資家にもそれに見合う利益をもたらしたことだろう。

適切な例ではないが「天道は是か非か」という『史記』列伝の有名な言葉を連想する。その昔、殷を滅ぼした周を認めず山にこもった義人の伯夷・叔斉兄弟が飢死し、一方、人殺しで盗賊の盗跖などという男が裕福に暮らし天寿を全うした。前漢の武帝に正論を述べたばかりに宮刑を受けた司馬遷が、自己の境遇も重ねて伯・叔の故事にまつわる不公正さを問い掛けた。『史記』全巻に通じるテーマとされる。

ヘッジファンドに戻ると、投機行為には当然リスクも伴う。とはいえ人を顧みない身勝手な拝金主義がまかり通っては、それこそ末法の世になってしまう。