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宗教文化教育の挑戦

2010年2月9日付 中外日報(社説)

大学で宗教学やそれに類することを教えている人たちからしばしば聞くのは、最近の学生は宗教についての基礎知識が乏しくなっているということである。

現在のローマ教皇の名前を知らないとか、シーア派が、何の宗教に関係することかを知らないというのは、まだ仕方がないという部類に入ろう。だが、自分の家が仏教と関係あるらしいことは知っていても、何宗であるかまでは知らない学生、あるいは神道が神社と関係あるものだと知らない学生が少なくないとなると、このままでいいのかと考えざるを得ない。

では、初等、中等教育では、宗教についてほとんど教えないのかというと、教科書に限っていえば、意外に内容は充実している。高校生用の教科書ともなると、結構宗教についての説明にページが割いてある。イスラームにしても、世界史や地理で多くの記述がある。メッカのカーバ神殿がカラーで説明されているのは普通で、教科書によっては、メッカをマッカと表記するなど、最近のイスラーム研究の動向が反映されていたりする。

日本の仏教については、日本史や倫理社会といった科目で、歴史的な流れが紹介されているし、鎌倉仏教については、主立った宗派や開祖たちについて、その教えが簡単に説明されているようだ。

にもかかわらず、それらがあまり身に付いていないように見受けられるのは、どうしてであろう。受験で覚えた事柄が、大学に入った途端、どんどん記憶から遠ざかってしまうというのは、よくある話なので、その一つの例であると考えることもできる。とはいえ、これは常識ではないかと思われるようなことまで、まったく知らない学生が増えてきているのを感じると、中等教育での宗教問題の扱いに、何か問題があるのではないかと問うてみる必要がありそうである。

政治への理解を深めるには、日本や外国で、実際に政治がどう行なわれているかを、ある程度知っていることが前提となる。経済への理解を深めるには、経済行為とは具体的に何を指すか、自分たちが取っている経済行為は何かを知っていなければならない。

宗教についての理解もそうである。身の回りの宗教についてある程度心得ていたり、世界で起こっているどのような事柄が宗教に関係したことかを、少しは知っていることが、宗教への理解を深めるには重要である。自分の生活とつながる事柄への知識なしに、宗教の理念だけを語っても、若い人たちはなかなか宗教を自分の問題としては考えにくいだろう。

おそらく、昨今の学生は、こうした「生きた宗教」についての基礎的な知識が乏しくなっているのである。そうなった理由の一つは、教師の側が具体的な宗教の問題として、何を取り上げていいのか戸惑っているという現実が考えられる。多くの人が指摘するように、これには近代日本の宗教と教育をめぐる問題が影を落としている。だが、この状況は明らかに改善すべき段階にきている。

一昨年から、大学における宗教文化教育を意義あるものとするための方途が、科学研究費補助金の助成を得て検討されている。星野英紀大正大学教授を研究代表者とする「大学における宗教文化教育の実質化を図るシステム構築」というプロジェクトである。

このプロジェクトが設けているホームページ(http://www2.kokugakuin.ac.jp/shukyobunka/index.html)を見ると、調査・研究の他に、国際フォーラムやシンポジウムなども重ねられており、かなり具体的に話が進行しているのが分かる。この試みは当然、中等教育における宗教文化教育に道を開くことになるだろう。

あまりその意識がなくても、実は自分は何らかの宗教文化の影響を受けて育っているのだということ、そして世界の人々もそれぞれに宗教文化に影響を受けた部分があるのだという認識は、早くから養っておいた方がいい。これは公立の学校でも充分可能な教育であるし、宗教に批判的な人でも反対できない教育のはずである。