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日本のここが好き

2009年12月12日付 中外日報(社説)

最近、加藤恭子編『私は日本のここが好き! 外国人54人が語る』という、女性向けのおしゃれな装丁の本を読む機会があった。世界の至る所から日本にやって来て、日本にほれ込んでしまった人たちに編者が試みたインタビューをまとめたものだ。

「日本人は元気がない。しかし、外国から日本にやって来た方で、日本社会のよさにぞっこんほれている人が大勢いる」という考えで共鳴した加藤さんと文藝春秋の編集者との出会いがあり、二人の企画が『文藝春秋・特別版』で取り上げられ、それがこの本の基になっている。

正直に言ってあまり読みやすい本ではない。インタビュアーがほとんど素人で、文章もごつごつした感じすらある。それでも行間に訴えてくるものを感じるのは、いずれもが日本への思いを語る人たちの嘘いつわりのない実体験であり、その人たちの生涯を決定づける人生体験に基づくものだからだ。

モハマド・オスマン・アミンさんはシリアの女性で、「戦火のない国でのしあわせ」を語る。それなりの戦争体験を持つ筆者の心にも響く内容であった。王敏さんは中国から来日して、宮澤賢治研究者としても著名な方だが、日本人の優しさに心惹かれて日本に定着したことを初めて知った。

日本人と結婚するなど、日本国籍を得た人も多い。「私は日本のすべてを受け入れます」と語るイギリス人の方もいる。日本の社会システムを高く評価する人。江戸時代からの経済成長に驚くアメリカ人。一つひとつのインタビューに新鮮な刺激を受けた。

元上智大学学長のヨゼフ・ピタウ氏も登場する。氏はイタリアに生まれ、十七歳でイエズス会に入会。スペインで哲学を勉強するなどした後、神奈川県横須賀の田浦で日本語を勉強し、栄光学園の教師になった。氏の人生の経歴はいわば日本から始まり、上智大学教授、学長、理事長を経てヨハネ・パウロ二世に見いだされて、ローマのイエズス会本部で輝かしい活動の時代を体験したのだという。そして、この本が発行された昨年の段階ではピタウ氏は上智大学構内のSJハウスで余生を送っているとのことである。その宗教者としての生き方には、あらためて感動を覚えた。

筆者の知人にも、少女時代に日本社会の再建のために来日し、知的障害児の施設などで大工仕事やペンキ塗りの奉仕をして知日家になった方がいる。宗教的バックグラウンドを持つアメリカン・フレンズ奉仕団の一員として来日し、すっかり日本文化の虜(とりこ)になったらしい。ニューヨークのコロンビア大学名誉教授バーバラ・ルーシュ博士である。

米国の大学を卒業した後、京都大学に学び、日本語で日本文学研究の論文を執筆した。二十年以上前、鎌倉時代に日本で初めて臨済禅の尼僧となった無外如大の頂相に出会ったのがきっかけで日本仏教を支えた女性の研究に意欲を燃やし、その後、奈良・京都の尼門跡寺院の研究をする傍ら、尼門跡寺院の護持の奉仕活動をしておられる。今年、東京芸術大学、コロンビア大学に本拠を置く中世日本研究所などの共催で開かれた「尼門跡寺院の世界皇女たちの信仰と御所文化」という展覧会が好評を呼んだことも懐かしく思い起こされる。

人は、何げない周辺に内蔵される貴重な財産に気付かないことが、間々あるようだ。外から訪れた人にその価値を指摘されて、認識を新たにするというようなことが少なくない。バーバラ・ルーシュ博士の尽力によって尼門跡寺院の伝統が紹介されたこともその一例といえるだろう。